崩壊のきらめき

「クラッカー君が!?」

放課後。他の生徒たちは不良が怖くて家に帰った。その不良達の半数以上がシャーロット家、つまりはナマエの幼馴染なので全く怖くないナマエはプリンと共に学校に残っていた。

クラッカーが、ルフィにやられたという。あの痛がりだけど強いクラッカー君まで負けてしまうなんて。ルフィ君はああ見えてとても強いんだ・・・。

プリンとブリュレはクラッカーの傷の手当をしている。

「何なのよ、あの麦わらってやつは!!」

ブリュレも目を三角にしながら怒っている。

「でもまあ、今頃はカタクリお兄ちゃんが始末してくれてるからね。ウィッウィッウィ」
「え!そうなの?」
「そう。今、屋上で二人は決闘の最中よ」

屋上。ナマエとカタクリが一緒に花火を見た場所。そんな場所が喧嘩で血濡れてしまうなんて。悲しみともなんともつかない気持ちがナマエの胸にこみ上げた。


________

「ちょっとそこの女」
「え?あ、フランペちゃんだ」
「気安く名前を呼ばないでよね!!」

彼女はフランペ。プリンやカタクリの妹。今日も自他共に認める可愛さである。

「今日も可愛いねー」
「当然よ!って、アンタなんかに言われてもこれっぽっちも嬉しくないから!ブス!」
「OH・・・」

いつもの毒舌にはもう慣れっこだ。ここまで来ると、イライラを通り越して可愛い。

「中学生、高等部棟立入禁止なんじゃないの?」
「そんなの知らない。私のカタクリおにー様はどこ?」
「あなたのカタクリおにー様は今屋上だよ。でも邪魔しないほうが・・・」
「うっさいわね!私がカタクリおにー様に褒められるいい機会なの!」
「あ、待っ・・・」

フランペは屋上に行ってしまった。ナマエはため息をついて、屋上への階段に腰掛けた。

怪我、して欲しくない。ルフィ君にも、カタクリにも。

今も彼らは扉の向こうで戦っている。ナマエはただ、扉を見つめていることしか出来なかった。



「キャアアアアアア!!!!!!」

バタン!と勢い良く屋上の扉が開いて、フランペちゃんが飛び出してきた。

「ば、バケモノよ、あんなの!!!」
「フランペちゃん!?」

フランペは背中を丸めて一目散に走って逃げた。おかげで何があったのかわからない。


ガチャリ、と音がしたので扉の方を振り返る。そこに立っていたのは、無敗の男・カタクリではなくルフィ。

「ルフィ君?」

ルフィは立っていられなくなって、膝から崩れ落ち、そのまま階段からも転げ落ちた。

「大丈夫!?」

咄嗟に支える。体に力が入らないようだった。

「ルフィ!!!」
「ナミちゃん!ルフィ君をお願い!」
「分かった!」

ナミが救急箱を持って駆けつけた。ナマエはルフィをナミに任せた。


「っカタクリ!!」

ナマエは救急箱を抱えていたので扉は足で蹴破る。蝶番が外れてしまったが今はそんな些細なことを気にしていられる余裕をナマエは持ち合わせていなかった。

「!」


奥にはフェンスにもたれかかるようにして倒れているカタクリが目に入った。

ナマエはカタクリのもとへ走る。
負け知らずのカタクリが。あのカタクリが、倒れている。

カタクリは頭から血を流していて、その血は首まで滴っていた。
そしてナマエは気付いた。カタクリがマスクをしていないことに。



「・・・バケモノみたいな口だろう」

カタクリは自嘲気味に笑ってナマエに問うた。その声が少し震えていることにナマエは気付いただろうか。

今まで順調に築き上げてきたナマエとの関係は、今日でぶち壊された。きっと幻滅される。カタクリは絶望で体が冷たくなっていくのを感じた。
目が霞んでナマエの顔がよく見えない。きっと恐怖に顔を歪めているに違いない。しかも麦わらにも負けた。ナマエは昔から強い方が好きだった。

クラスで一番足が早い男子をナマエがかっこいいと言ったから、おれはそいつをリレーで抜いた。でもナマエはおれに見向きもしなかったじゃないか。
一番力が強くても。一番お前を好きでも。お前はおれを見てくれない。
なあ、どうやったらお前の一番になれる?
嗚呼でも、こんなバケモノじゃなれるわけがないのに。


「カタクリは、バケモノなんかじゃないよ」

その言葉に、同情は感じられなかった。声が震えている。
突然、息が止まるほどぎゅっと抱きしめられた。耳元で声に涙を滲ませながらナマエは言葉を紡いでいく。

「知ってたの。カタクリの口のこと」

思わずカタクリははっと息を呑む。どうして。

「いつも私の部屋から影が見えたの」

ナマエの部屋からはカタクリの姿が見える。見えるのはシルエットだけだったが、いつもそこからカタクリがドーナツを頬張るところを見ていたのだった。

「知っていたなら、どうして・・・」

どうしておれから離れていかない?



「好きだから。カタクリが」

その言葉の意味を理解するのに少々時間を要した。だけれど、その言葉の持つ熱はカタクリの耳から体へと全身に流れてゆく。そうして、真っ赤になったカタクリの視界は先程よりも霞んでいた。その喜びが後から後から心の底から溢れ、心と体を満たした後、外に溢れ出る。

「ナマエ」

そう名前を呼ぶと、カタクリの頬にナマエから生まれた熱い涙が落とされた。ゆっくりと、カタクリは涙を拭い取り、彼女の頬に手を添える。

「好きだ」

ずっと前から、お前が。

ナマエからとめどなく生まれる涙達。それらのなんて美しいことであろうか。カタクリはしばし見とれていた。

絡みあうお互いの視線。時間が止まって、周りが透明になる錯覚を見ていた。

「だいすき」

ナマエのその言葉に耐えられなくなったカタクリは、静かに顔を近づけ、そのまま唇を触れ合わせた。彼女の唇は驚くほどに柔らかかった。



誰もいない、二人だけの屋上。つい先程まで喧嘩があったとは思えないほど辺りは静か。そんな中での二人のキスは、まるで映画のワンシーンを切り取ったかのように美しかった。

崩壊のきらめき



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