楽しい時間はあっという間に過ぎてゆく。カタクリと一緒に学校祭を回っていると、気付けば時計の針はもう花火の上がる時刻を指していた。
「そろそろだな」
周りのカップルたちも花火が見えるプールに向かっていた。だがカタクリが向かったのはプールではなく校舎。
「え?プールじゃないの?」
「あそこは人がたくさんいるだろ」
歩みの遅くなったナマエの手首をカタクリが掴み、前へと引っぱる。カタクリの指は熱くて、私の手首には彼の指の跡がつきそうだ。手をつないでいるだけで身体ごと包まれている安心感があった。
カタクリはズンズン進んで四階まで登る。
「まさか屋上?立入禁止だよ・・」
学園ドラマや少女漫画をたくさん見てきたナマエは、屋上に憧れている。だが実際屋上が開放されている学校なんて皆無だ。
カタクリは屋上の扉に掛けられていた南京錠を素手で、素手で破った。
「わあー、男らしいね・・」
バレたら自分も共犯になりそうだったが、もうどうでも良くなった。
屋上は当たり前だが無人だった。カタクリとナマエは柵に寄り掛かる。
「寒いね」
と、言えば後ろから、ぎこちなく伸びてくる腕があった。カタクリは自分の上着を掛けてくれた。
「なんか悪いよ」
「気にするな」
好き。こういうところがだよ。
早く言いたい。でも言えない。
「あ、上がるよ」
学校祭にしては大きな花火が空で炸裂した。色とりどりの花が開く。赤。青。緑。化学反応とは思えないくらい、綺麗だ。
「綺麗だな」
カタクリの口から綺麗という単語を聞いたのは初めてかもしれない。なんだかおかしくて一人で笑った。
「・・何笑ってやがる」
「だって、カタクリ綺麗とか言うの似合わないと思って、ふふ」
また大きな花火が空に咲いた。
「おれだって、綺麗だと思うものくらいある」
カタクリはナマエの横顔を眺めながら言った。空の花火に夢中なナマエはこちらの視線に気付かない。
花火は綺麗だ。だが今は花火を写す、ガラス玉のように輝いたナマエの瞳のほうが綺麗だ。
「ふうん」
ナマエも花火に本格的に見入って、会話はそこで途切れた。でもカタクリはこうして一緒の時間を共有出来ていることがたまらなく嬉しい。
来年も、二人で。
「来年も、一緒に見ようね」
おれの心の内を読んだかのように、ナマエはそう言った。
「あァ」
その時は。一緒に手を繋いで。恋人同士として見れますように。カタクリは今だけ、花火のジンクスを信じた。
いろどりに満ちた影が落ち
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