カタクリの兄貴はいつも、ナマエさんが男と話していると入ってくる。たとえその男が自分の兄弟だったとしても。
さっきだってそうだ。ただ、ナマエさんと話していただけなのに。いや、あれはお風呂上がりだったから悪かったのかもしれない。
クラッカーは溜息をついた。全く、あの二人はいつになったら。
クラッカーもプリンと同様、二人の関係を案ずる者であった。
ダイフクに借りていた漫画を返しにダイフクの部屋に行くと、オーブンもそこにいた。
「あれ、オーブンの兄貴まで」
「おいクラッカー、さっきのカタクリ見たか?」
「え?ああ」
ダイフクとオーブンはニヤニヤが止まらないようで。
「さっき、ナマエに花火に誘われたらしいぜ」
「おおー?」
クラッカーもニヤニヤしてきた。
「ちょっとイジリに行くか」
「おう」
________
これは夢か現実か。
カタクリは自室に戻ると直ぐに、ベッドに飛び込んだ。
周りからは生まれてから1度も背をつけた事がない、と言われているが、そんな事は無い。他の人間と同じように背中をつけるし眠る。
下の兄妹達にも神格化されている。カタクリは正直困っていた。
だから、本当の自分を知っているナマエとの関係はカタクリにとって心地良いものであった。
そんなナマエからの花火の誘い。
二つ返事で快諾したが、さっきのは、本当に現実だったのだろうか?
カタクリは枕に顔を埋めた。まだ顔が赤い。
先程のナマエはお風呂上がりだったようで、顔が火照ってとても…扇情的だった。
そして「おかえりなさい」と、まるで嫁みたいなナマエにカタクリは顔には出さないが悶えていた。
更に花火のお誘い。ナマエがジンクスの存在を知らないはずがない。
分かってておれを誘ったのか。だとしたら、もしかしたら、もしかしてしまうかもしれない。
ナマエは、おれの事が…
考えただけで顔がぽーっと赤くなる。頭に浮かんだその2文字は自惚れかも知れないが、それでも。嬉しかった。
カタクリは枕元に立て掛けてあった写真を手に取る。それは幼い頃の写真に写りたがらない自分とそれをがっちりホールドして離さない満面の笑みのナマエが写っていた。思えばこれが二人で撮った最後の写真だっただろうか。
写真は嫌いだった。時にはマスクを外さないといけないからだ。こんな口、見せられたもんじゃない。
でも、写真に写ったナマエは好きだった。やはり笑顔が一番似合う。
カタクリの携帯の写真フォルダにはナマエの写真でいっぱいだ。大体はプリン経由で手に入れている。
明日。明日だ。どうすれば。カタクリは嬉しい半面困っていた。
今夜は眠れないだろう。
「ナマエ・・・」
顔が真っ赤なカタクリを、兄弟たちがからかいに来るまで、あと数秒。
聡明なる意地
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