学校祭最終日。トッ高には花火が上がる。
その花火を好きな人と一緒に見ると、末永く幸せになれる。とかいうありがちなジンクスもあった。
ナマエは別にそのジンクスを信じ切っているわけではないが、なんとなく縋りたくなって。
好きな人____カタクリと、見たい。と思っているわけである。
「どうしよ〜う」
「知らないわよ」
話し相手、プリンもナマエのこの話には聞き飽きた。マニキュアを塗り直している。
「誘えばいいじゃない」
「勇気ない」
「誘われればいいじゃない」
「絶対誘いに来ない」
こんな分かりきっている不毛な会話をかれこれ30分。そろそろ飽きる。
「いつでも誘えるんだから。それにもうすぐ帰ってくるし。ここに。」
そう、ここはナマエのお隣、シャーロット家のプリンの部屋だ。今日は明日のメイクやらコーディネートやらをプリンと決めるためにいる。それがあまりにも盛り上がってしまい、ついノリでお泊りになってしまった。
先程シャーロット家のお風呂も借りて、ナマエのお肌はトゥルトゥルになった。
「この家、広すぎ・・・。お風呂も何回来ても広いし入浴剤良いやつだし・・」
「まあね。金持ってるから」
流石は大企業の家だ。お風呂もホテル並み。そしてたくさんの兄妹がいるシャーロット家だが、一人につき一部屋があたっている。この家には部屋が数えきれないほどにあるのだ。
「カタクリの部屋ってどうやって行くの?」
「確か二階。丁度アンタの家の真向かい」
ナマエの家はごく普通の、どこにでもある一軒家。二階にはナマエの部屋があり、窓を開けると丁度正面にカタクリの部屋がある。それで小さい頃はよく窓からカタクリの部屋に入っていた。流石に今は行かないが。
「・・・・なんで部屋をアンタの向かいにしたか、か分かる?」
「えっと・・、角部屋だから?」
「はあ・・、」
アンタは何もわかってないわね。プリンにそう毒づかれたが何を言ってるのかさっぱりだった。
ガチャリ、と玄関ドアが開いた音がした。
「!カタクリ帰ってきた?」
「きっとそうよ。さあ!誘って来なさい」
無理無理無理無理。誘えない!勇気ない!
抵抗虚しく、ナマエはプリンによって部屋を追い出された。
仕方無く、ナマエは玄関へ向かう。
「あれ?クラッカー君?」
玄関にいたのは、カタクリではなくクラッカーだった。さっきのドアの音は、確かにカタクリが帰ってきた音とは限らないではないか。
「ナマエさん。今日は泊まってくの?」
「そうなの。プリンの部屋で寝るから」
「へえ、てっきりカタクリの兄貴の部屋かと」
ボンッ、と顔が真っ赤になる。クラッカーはニヤリと効果音が付きそうなほどニヤリとした。
ナマエも負けじと言い返す。
「そういうクラッカー君だって、明日の花火はあの子と行くんでしょ?高校から編入してきたあの子。名前は知らないけどさ」
今度はクラッカーの顔が真っ赤になった。してやったり、と満足そうなナマエ。
「別に・・。ただアイツが花火見たいって言うから」
「またまた。ホントはクラッカー君から誘ったんじゃなくて?」
「ちげえよ!」
「(ツンデレ・・)はいはい」
「何の話をしているんだ?」
「あ、カタクリ。おかえりなさい」
いつの間にかカタクリも帰ってきた。私がおかえりなさいと言うと、カタクリの耳朶はほんのりピンク。外は寒かったのだろうか。
「今ね、クラッカー君の・・」
「あ、おい!」
クラッカーがナマエの口を手で塞いで次の言葉を奪った。するとカタクリの眉根が寄せられる。
その気配を察知したのかクラッカーはすぐさま手を離した。
「じゃあ、おれは上行くから」
後はごゆっくり。とクラッカーは逃げるようにして自室への階段を登った。
「・・風呂上がりか?」
「うん。先にお風呂借りました」
「そうか」
うん。誘えない。会話がいつもより早く終わってしまう。
でもこのままじゃだめなんだ。前に進まないと、この関係も進まないから。頑張れナマエ!
「あの、さ」
「なんだ」
「っ花火って、知ってる!?」
間違えた。やらかした。花火なんて誰でも知ってるわ。
「それは、最終日の打ち上げ花火のことか?」
凄い、カタクリが頭よくて助かった。アホな会話が続くところだった。
「・・・うん」
カタクリの顔を見れない。恥ずかしい。
「一緒に、行ってくれませんか」
ミョウジ ナマエの人生の最大の告白だった。ああ、ダメだったらどうしよう、どうしよう。
一瞬の沈黙だったが、ナマエにとっては永遠だった。
「わかった、行く」
え?今、なんて?
「へ?」
まさかのまさか。返事がYESの想定なんてしてなかった。
「じゃあ、明日だ。おれはもう寝る」
「お、おやすみ・・」
「おやすみ」
カタクリは二階に登っていた。ナマエはその場に立ち尽くしていた。
「あー・・・・」
OKもらっちゃった・・!夢みたい・・!でも夢じゃない・・!
いま顔が溶けそうなほどニンマリしているに違いない。
プリンに報告するため、ナマエは浮かれ足でプリンの部屋に急いだ。
寄贈されたとある恋
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