チェリーシロップ・キッス


それから時は過ぎて、おれは大臣職、そして将星の肩書を手に入れた。
ナマエの懸賞金も遂に億を越えて、ママのお気に入りの部下になった。


今日ナマエは遠征で得た大量の宝物をママに献上したので、ママの機嫌は良くなっている。

「マ〜〜マママ!ナマエ、よくやったじゃねェか!近々褒美をくれてやらねェとな!」
「ありがとうございます」

ナマエは緊張した面持ちで頭を下げる。やはりママと話すのは神経を使うようだ。

「懸賞金額も上がったことだし、それにお前の強さ!!おれはますますお前を気に入った!」

マ〜〜マママ!天井が震えるような高笑い。ナマエはママの口からどんな言葉が出るのかと固く唇を結び拳を握りしめている。



「おれの家族として、おまえを迎え入れてやってもいいなァ」
「!」


ナマエの表情が、驚きから嬉々としたものへと変わった。

「今すぐにとは言わねェが、おれの息子のうちのどれかと結婚してもらう。ハハハ〜!ウエディングケーキが楽しみだねェ!」

ママはそう愉快に笑って、今日の謁見を終わりにした。

***

「ナマエ」

ママの部屋から出て廊下を歩くナマエに声をかけた。声をかけたはいいが何を言ったらいいかがわからない。

「・・・、良かったな」

なんとか声を絞り出し、これだけ言った。

「うん」

対するナマエだが、あやふやな顔でおれを見上げた。もう少し嬉しそうにすると思っていたのに。

「ママのあの言い方だと、結婚相手は勝手に決められるんじゃないかな、って・・」
「ああ・・・」

確かにそうだったかもしれない。結局褒美といえど、ママの命令なのだ。

「でも、可能性は捨てきれないから、嬉しいな」

ナマエは笑っていつもの片えくぼを寄せた。おれは、ナマエがまだペロス兄を諦めていないんだと再認識させられた。

だがナマエも思っていることだろう。正直、長男と結婚出来る可能性は低い。結婚相手には、ナマエが話したこともないような兄弟たちが選ばれる方が有り得る。



どうせナマエとペロス兄は結ばれないのだから、いっそ自分が結婚相手に名乗り出てしまおうか。



そう一瞬考えたが、カタクリは考えをかき消すように首を横に振った。

おれは疲れている。そんなことをしてもナマエのためにならないことくらい分かっている。
いつもはあまり飲まないが、今は酒が飲みたい気分だった。酒の力で、何もかも忘れたい。

***

明くる日。おれは朝一番に縄張り周辺をうろついている海賊船を何隻も沈め、通りかかった貨物船からも宝を奪い、沈めた。
そしてすぐに本土に戻り、珍しい宝物があったのでママに報告を行った。

「お手柄だカタクリ!!これはおれがずーっと探していた物だ!」

ころころと笑うママを見て安心する。機嫌は、悪くない。

「昨日ナマエにも褒美を与えたことだし、カタクリ、お前にも何かやらねェとなァ。・・・何か望みはあるかい?」

ここでそう来るとは思わなかった。・・・望み、そんなものは一つしかない。

「おれは・・・」



このときのおれは、まだ昨日の酒が抜けていなかったのかもしれない。でなければ一度捨てたあの考えを口にしてしまうなんて愚かなことはしなかった。
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