道中A



「しっかし、こんな形で旅に出ることになるなんて思わなかったぜ」

「まったくだね。旅に出るのにこんなに慌しい人って中々いないと思うよ」



ホントに慌しかった。

旅立ちだけじゃなく、昨日からフルで慌しく大変だった。

たった一日なのに三日間動き続けたぐらい疲れた。



「ユーリとユイは帝都から離れたくなかったんです?」



しみじみと思い返していれば、エステルからの疑問。

ユーリはそれに当たり前のように答えた。



「下町なんかに住んでると、今日を生きるのに精一杯でね」



確かに。ギャルゲーもエロゲーもない世界で欲求不満と戦いながら毎日を生きるのは大変だった。



「あんまり真剣に考えたことなかったんだよ」



そんな事を考える暇もなく自分を抑えるのに必死だったからね。もう少しで暴走するところだったよ。



「漠然と旅に出てみたいとは思っていたけどな」



色んな街を巡ってエロを追求するんですよね、すごくわかります。

ユーリの言葉に同意しながら今までよく耐えたぞ自分、と褒めておく。

たまには自分も褒めてあげないとね。いつまた何を口走るかわかんないし。



「わたしは、ずっと外の世界に憧れてました。ただ、外にいるだけで、感激してます」

「・・・」



エステルの純粋な思いが、私の心に深く突き刺さる。

ずっと城に閉じ込められていて、外に出たくても出れない。

そんな人生を送ってきた人の前で私は何を考えているのだろう。

あ、やばい。涙出そう。



「ま、感激するのもいいけどほどほどにな。フレンがピンチなんだろ」

「だから、フレンを心配しながら感激してるんです」

「フッ、わかったよ。・・・で、なんでおまえは涙目なんだ?」



先ほどから何もしゃべらない私を不審に思ったのか、ユーリは俯いてる私の顔を覗き込む。

ユーリが覗き込んだせいかばっちりと目が合い、ユーリは眉を寄せる。



「ちょっと自分の思考回路に幻滅してた」

「いつものことだろ」

「いやさ、ユーリやラピード、エステルに比べて私はなんてちっぽけなんだろうって・・・」

「いつにも増してネガティブだな」

「そしてそんな私の存在理由って一体なんなんだろうって・・・。ははははははははは」

「・・・こりゃ何言っても無駄だな。エステル、行くぞ」

「え・・・、あ、はい・・・」



ゆっくりと歩く中、前方には黒、白、青。

あれ?なんで色しか確認できないんだろう。

・・・そっか、私の目が霞んでるんだね。



「ってちょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

「お、戻ってきたか」

「おかえりなさい」

「あ、ただいま。・・・じゃなくて!無視しないでよ!」



今私の扱いの酷さを諸に見てしまった気がする。

大きく突っ込むと、ユーリは呆れたように口を開く。



「声はかけたぞ。おまえが聞いてなかっただけだ」

「・・・マジか」

「マジだ」



まさかの事実に衝撃が止まらない。

・・・じゃあ悪いの私じゃん。

いや、初めから悪いのは全部私なんだけどね。



「ごめんなさいでした!!」

「わかればいいさ」

「ふふっ。・・・そういえば、ユーリは魔術を使わないのです?」



私とユーリのわけのわからない会話が面白いのか、エステルは口に手を添えて笑う。

可愛い笑い方だな。へへへっ

涎がでるのをこらえていると、エステルは思い出したように口を開いた。



「使わないんじゃなくて使えねえの。オレ、こっちの才能はないらしくてね」

「でも、魔導器(ブラスティア)さえあれば、魔術の理論を学ぶことで誰でも使えるようになるはずですよ?」

「だから、その魔術の理論を学ぶ才能ってのが、オレにはなかったって話だよ」

「それってつまり、ユーリは勉強が嫌いなんですね」



確かにユーリは勉強とか投げ出して屋上とかでさぼってそうだな。

単位ギリギリで進級しそう。



「そうとも言うな。ま、勉強せずにノリだけで魔術ぶっ放すやつもいるけどな」

「ク〜ン」

「そうなんです?」



な、なんだよその目は。

しょうがないじゃん!私でもわけわかんなかったんだから!

ラピードも同意するように鳴かないで!



「あ!あれ何かなあ!?」

「苦しい言い逃れだな」

「あれは・・・。宿屋でしょうか?」



前方に見えたものを指差し、誤魔化すように聞いたら鋭い指摘。

なんだ!そんなに私を虐めて楽しいか!?



「行ってみます?」

「そうだね!色々あって疲れてるだろうし!」



エステルに激しく同意しながら、早く行こうと足を踏み出す。

なによりあそこにいるであろうカレンとリッチに会いたい(真顔)



「こんだけ話せれば大丈夫だろ。ほら、行くぞ」

「ぐえっ!」



もう一歩歩き出そうとすれば、私の首にユーリの腕が巻きつき、引き戻す。

あまりの急な締め付けに、カエルの潰れたような声が出てしまった。

ちょ、やばい苦しい!

私の苦しんでいる姿を視界にすらいれず、ユーリはそのまま歩き出すのだった。





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