魔核泥棒



「相変わらず貴族様は優雅なもんだ」

「ワフ?」

「すぐそこの下町で起った事件なんか関係ねえと思ってんだろうな。

 自分に害がないと興味も示さない」

「ク〜ン・・・」

「家でかくしたり、身なり良くしたりする前に

 もっと貴族らしい器のでかさを見せてほしいもんだぜ」

「ワフ〜」

「・・・私は貴族街で堂々と貴族の愚痴を言えるユーリの器のでかさに感服したよ」



ユーリが一番図太い神経してるわ・・・。


改めてユーリは凄いことを実感しながら、モルディオの屋敷に着いた。

ドアの取っ手を掴み、遠慮なく開けようとする。


ちょっ・・・。



「ここか。・・・なんか、人の気配がしねぇなあ・・・」

「殺し屋か、おまえは」



とりあえず突っ込むと、ユーリはドアを蹴った。


ちょっ!



「他に入り口はねえのかな・・・?」

「すごい。何事もなかったような顔してる」



さすがユーリ。やることが一つ一つ大きい。


あ、これ褒めてるわけじゃないからね。



「おっ・・・開いてる・・・?こっから入れんな」

「殺し屋の次は盗賊か。って突っ込んでる間に中に入ろうとするな!」

「早く来いって」

「やっとしゃべってくれたと思ったら共犯にするつもりか!

 ・・・ああ!わかった行くからちょっと待ってぇぇぇ!!」



私を無視してモルディオの屋敷を調べ始めたユーリに

慌てて窓から侵入。


なんだかんだ言ってユーリに乗せられてるような気が・・・。トホホ



「・・・この家のどこかにモルディオがひそんでやがるはずなんだが・・・」



言いながら、ユーリは二階のドアを片っ端から調べ始めた。



「・・・なんかもう、一種の取立て屋みたいになってる・・・」

「開かない、か・・・。どうすっかな・・・」



ヤバイ。本格的に無視されてる。

いい加減悲しくなってきた私の後ろで、ドアの開く音がした。



―ガチャ



「あいつは・・・」



ドアを開けて入ってきたのはフードを深く被り、

身長は小さめの人間だった。

そして手には、水道魔導器(アクエブラスティア)の魔核(コア)がある。


間違いない。コイツが犯人だ。



「おし、お宝発見!」



ユーリの楽しげな声が聞こえた瞬間、ドアの前に犯人が逃げないように

ラピードが立ちふさがる。

犯人が動揺している間に、反対側からユーリが現れた。


どこからって・・・、二階から。



「飛び降りるか?普通・・・」

「おまえ、モルディオだな?」



私は完璧に空気なようですね。


もう何でもいいと思い始めた矢先、犯人はポケットをあさり、そして・・・。



―ボフンッ



煙玉を床に投げつけた。

油断していた私は、思いっきりその煙を吸う。



「ゲホッ!ゴホ!・・・ゴファ!!」

「よし、よくやった、ラピード」



さりげに血を吐く感じに咽てみたのだが、

ユーリは袋を銜えたラピードを褒めていた。

どうやらさっきの煙玉で犯人は逃げたらしい。

しかし袋だけはラピードが銜えていた。

いつもなら「さすがだぜラピード!」とか言うんだけど・・・。

ゴメン。今は無視され続けてるダメージを回復するのに必死なんだよ。



「なんだよ!魔核(コア)がねえぞ!」



ユーリの言葉に、現実に戻される。

袋の中にに魔核(コア)がないらしく、ユーリは眉間に皺を寄せる。



「魔核(コア)を取り返して一発ぶん殴ってやろうぜ」

「ワンっ!」

「・・・頑張れ〜」



いいよ、もう。どうせ俺は空気なんだろ!?



「何言ってんだ。おまえも来んの」

「・・・」

「さっきは無視して悪かったって。ちょっとピリピリしてただけだし」

「・・・マジ?」

「マジ」



じゃあ私は意図的に無視されてたわけじゃないんだね!

一気にテンションが上がった私は、ドアに向かう。



「さ!早く犯人をぶん殴っちゃおうぜ!」



苦笑したユーリとラピードと共に、私たちはモルディオの屋敷を後にするのだった。





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