武醒魔導器



「先月、税の徴収にきた騎士ともめてぶち込まれた

 ばかりだってのに、またここの世話になるとはな」

「常連さんだね」

「まったくだ。

 大人しくしてりゃ飯は出てくるとはいえ、

 ここのまずい飯だけは慣れねぇ。

 ったく。キュモールのせいで面倒なことになっちまったぜ」

「おつかれさま!今日は私が愛情こめて料理してあげよう」

「ああ、頼むわ」



意気込むユイを尻目に周りを見渡すと、

騎士どころか誰もおらず思わず呆れてしまう。



「相変わらずのざる警備かよ・・・。

 これなら抜け出せっけど、脱獄罪の上乗せは勘弁したいな」

「もう脱獄してるし無理だって」

「大丈夫だろ。

 下町の様子を見に行くだけなら、朝までに戻ってこられるか・・・。

 女神像ってのも試す価値はありそうだな」



ま、騎士に捕まってたおっさんの情報だから信用できねえけど。

しかし他に方法がないため、とりあえず試すしかないだろう。



「んじゃ、Let's go!だね」

「ああ」



ユイの言葉の発音が良かったことには触れず、

先ほどからの疑問を考える。



「・・・」



おかしい。

なんでオレにもユイにも傷がないんだ・・・?

傷を受けた記憶はある。痣になるくらいの傷を。

それなのに傷はなく、いつも通りに動ける。

もちろん騎士が治すとも思えない。


そこまで考え、まさかと思いユイに問いかける。



「・・・なあ、ユイ」

「はい?」

「おまえって、術とか使えねぇよな?」

「・・・いや、武醒魔導器(ボーディブラスティア)持ってないし、無理でしょ」

「だよな。・・・行くか」



たしかに、ユイは武醒魔導器(ボーディブラスティア)を持っていない。

もちろん術も使えないはず。

だが、キュモール隊のやつらがせまってくる直前、

ユイは『未来予知』と呟いた。

これが何かはわからないが、オレには術のようなものに聞こえた。

実際、何も起きてはいないが。


(・・・なんか腑に落ちねぇ・・・)


何が引っ掛かっているのかはわからない。

とりあえず、今は脱獄に専念しようと頭を切り替えるのだった。





[前]
[次]


戻る

Topへ


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -