08


あれから二週間が経った。私は左目を乗り越えて無事食事が出来るようになった。時々あの日のことを思い出して吐き気が襲うけれど、みんながいるから何とかやっていけている。だけど私には一つだけ慣れないことがあった。


「ユ、ウ……」

「アリーチェ!?」

「おなか……へった」

「また修業か?」


そう、修業だ。修業自体が慣れないわけじゃなくて、修業をしていると空腹にいつまで経っても気づけない。それが、唯一の慣れないことだ。いくらイノセンスが私を強化してくれているとはいえ、このままじゃいけない。だから修業をはじめたんだけど。


「程々にしろってあんだけ言っただろ」

「ごめんなさい」

「たく……相変わらず世話のかかる」

「あ、え、ユウ様!」


不意に横抱きにされて思わず様付けで呼んでしまう。周りからは冷やかしの声が飛んできているのにも関わらず、ユウは下ろしてはくれない。寧ろ楽しんでいるようにさえ見えるし、全く気にしていないようにも見える。


「な……何するんですか、ユウ!下ろしてください!」

「騒ぐな、うるさい」

「無理です騒ぎます!」

「そのエネルギーはどこから出てくるんだ。腹減ってんじゃねぇのかよ」


あ、と気づいたときには全身に空腹感が広まって一気に力が抜けていった。私は大人しくユウに抱かれたまま食堂へ向かう。ふとユウと目が合ったけれど少し頬を染めてすぐに正面に向き直ってしまった。一体何だったんだろう。


「こいつに焼き飯大盛り」

「お蕎麦とお刺身と鱈のムニエルバター醤油で。それから、」

「後にしろ。とにかく焼き飯だけ早く作ってくれ」

「まだ、食べます……」


少し朦朧としてきた意識の中で食べたい物を並べる。だけどユウに遮られてほとんど言えなかった。料理長ジェリーさんの楽しそうな返事を後ろに聞きながらユウに席まで連れて行ってもらった。椅子に座ってもなおユウに体を預けていて、ユウは腰をずっと支えていてくれた。しばらくして何故かラビくんによって焼き飯が運ばれてきた。


「ありがとうございます、ラビくん。いただきます」

「アリーチェ、どうしたんさ?」

「素晴らしく空腹です。動けなくなるくらい」

「あんま無茶すんなよ?」


通常の三倍の量はあるらしい大盛りの焼き飯を五分で平らげた。その間にまたもラビくんが料理を運んできてくれた。お蕎麦はユウにプレゼントして私はお刺身を食べる。途中私はあることを思い出してラビくんに話しかけた。


「ラビくん、注文をお願いしたいです」

「注文?」

「はい。ハンバーグにブリの照り焼き、オムライスに焼きそばに卵焼きにキャベツの千切り、フライドポテトもお願いします。もちろん全部大盛りで。あとデザートにプリンとチーズケーキ5個ずつです」

「りょ、了解さ……」


ちょっと引き攣ったような顔をしてジェリーさんのところへ向かうラビくん。残っているお刺身をすぐに食べてしまって鱈のムニエルに取り掛かる。ジェリーさんの料理は本当に美味しい、きっと寄生型じゃなくてもつい食べ過ぎてしまいそうだ。ムニエルを一口頬張って、噛み締める間にユウの口の中に突っ込んだ。


「アリーチェ」

「何でしょう」

「後で覚えてろよ」

「お蕎麦ばっかりじゃ駄目です、栄養が足りません。他も食べなさい」


思いっきり舌打ちをされて、だけどそれでも隣にいてくれるユウ。そんなことが嬉しくて嬉しくて仕方ない私。ムニエルを食べ終わって五分もしないうちにハンバーグと焼きそばが出てきた。交互に食べながら時々ユウの口に突っ込み、笑いながら食事を進めていった。



(2018.07.22)




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