知らない世界




いつものようにベッドの中で目を覚ました。だけど枕もシーツも布団も、何もかもが私の部屋のものとは違った。よくわからないまま起き上がって辺りを見渡してみると、明らかに知らない場所で。何と言うかこう……男の人の部屋みたいな雰囲気で……。ぼんやりする頭の中で考えていると、がちゃりと扉が開いた。


「あ、起きた?おはよう。よく眠れた?」


栗色のような、キャラメル色のような、きれいなブラウンの髪のイケメンが入ってきて私にそう告げた。突然の出来事に思考回路が停止してしまい、ベッドから起き上がって彼の方を見たままフリーズしてしまう。誰だ、このイケメン。


「初めまして、俺、沢田綱吉って言うんだ」


彼はベッドに腰掛け、私の両手をぎゅっと握って名前を教えてくれた。君の名前は?と訊かれたけれど、私はただ呆然と彼を見ることしかできなくて。


「……ごめん。いきなりのことで驚いてるよね。でも俺たちは君に危害を加えたり、悪いことしようってわけじゃないんだ」


バツの悪そうな顔でそう言われて、やっと頭が回り始めた。まだよくわからないけれど、とりあえず彼の言っていることは理解できて、名前を訊かれていたな、と思い出す。


「あ、の……私は、宝華紫鶴……です」

「これからよろしくね、紫鶴」

「えっ、え?ど、どういうこと……?」

「紫鶴、中庭で倒れてたんだ。そこを俺が見つけて、ここまで運んだってわけ」


中庭で?倒れてた?んん?わけがわからない。私は昨日、仕事を終えて直帰して、ちゃんと自分のベッドで寝たはずだ。万が一にも知らない人の、知らない家の、知らない庭でなんて倒れているはずもない。夢遊病じゃあるまいし。


「あの、ここは一体、どこなんでしょうか……」

「ここは俺たちボンゴレの屋敷だよ」

「ぼんごれ……?」

「そう、ボンゴレ。イタリアのマフィア」


ぼんごれ……ぼんごれ……どこかで聞いたような……。うーん……あ、あのときの……?夜中に目が覚めたときに手に握っていた銃弾のようなものに、ぼんごれって書いてあった気がする。それを言葉に出したあと、どうしたんだっけ……。というか、ん?イタリア?


「イタリア……?の、マフィア……?」

「知らない?」

「知りません」

「結構有名なんだけどなあ」


彼……沢田綱吉は、私の手を握ったままニコニコしている。ふつう庭で倒れていた見ず知らずの女を助けてここまでニコニコできるか?よくわからない。よくわからないけれど、とにかく日本に帰らなきゃ。家族も友達も仕事も置いてきている。


「日本に帰ります」

「……ここが、知らない世界でも?」

「知らない世界?イタリアは知ってるし、貴方日本人ですよね?ということは日本もありますよね?知ってる世界ですよ」

「これ、見て」


彼は私の手を離し、机の上からノートパソコンを取ってくる。世界の地図が見れるソフトを起動させ、日本を拡大して私に見せてきた。画面を覗いてみると、そこに映っていたのは日本だけれど、日本じゃない場所。確かに世界地図も日本地図も私の知っているものだけれど、建物も街の名前も、何もかもが違う。


「どういう……こと……」

「俺もよくわからないんだけど、たぶん異世界ってやつだと思うんだ」

「異世界……」

「ま、そう考えるのが一番自然なだけなんだけどな」


なんだか目眩がしてきた。訳が分からない。だけどどうやら、今は彼のことを頼るしかないということだけははっきりとわかった。


「いつか帰れるかもしれないし、それまでここにいればいいよ」

「……よろしく、お願いします」


渋々頭を下げると、彼は本当に喜んでいるように、さも私を待っていたとでも言うかのように、笑った。知らない人とはいえ、あまりにかっこよくてつい見とれてしまった。飯でも食おう、と彼は言って手を差し伸べてきたから、その手を取ってベッドから起き上がった。

――この時私は、あまりに気が動転していて、いくつもの彼の不可解な言動をおかしいと思うこともなかった。



(2018.07.22)




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