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古代編セト夢「トゥレミーラ」の後日談です。




「王妃様どこにいらっしゃいますかー」

「ここよ」
「お戯れがすぎます…ほどほどに」
「やはりお前が一番乗りだったわ」
「わたくし、ナマエ様が幼少のみぎより仕えております故」


涼やかな風が頬を撫でる、この国に来てはや半月、目まぐるしく忙しい日々にもこの宮の新しき侍女達にも少しずつ慣れてきた

「さぁ、もうそろそろ行かなくてはね」
「あまりに溌剌としていらっしゃるとよからぬ噂も立ちましょうぞ」
「良いのよ」

噂の種がそれだけに留まるのならば


(あの夜の事がまるでまぼろしのよう)

手を取り眠ったあの日から一度も身体に触れられず、それどころか付き人無しでは会話すらまともに成り立たない。

お渡りこそ毎夜あれど、セト様が床に入るのはいつも明け方近く、それならと明け方までと起きていてもまるで私が眠るのを待っているかのように戻られないのだ




「あっナマエ様!お待ち下さいっ」
「ふふ、先に行くわ」
「危のうございますよ!…全くもうっ」




〜〜〜


今宵も寝台には枕が二対、己れが使うものではない方のそれを思わず投げてしまいたくなる
でも、

(夕餉にお酌をして少しだけ会話が出来た、加えて侍女の助太刀で洒落も言えたわ)

今日こそは、と襟を正す


(…)
(…)
(…そういえば)
(前にも同じようなことしたっけ…?)
(いや、してない してないわ)
(…待とう。)




気が付けば月の位置があんなにも西高い
日の出こそまだ先もとっくに国務は終えられている、はず


「…はぁ…。」

毎宵こんな事を繰り返す姿は、はたから見て余りにも滑稽で大層可哀想に映っていることだろうと気が滅入る

(…寝よ)

枕元の灯火を消し、だらしなく寝っ転がる。
お前も私と同じくらい役目がないねと隣の枕を撫でつけ目を閉じた



(それにしても何がいけないんだろう)
(色が無いなんて心無い事を言う家臣もいるけれどそれどころか女として見られているのかも…)

(…眠れない)



カタン…


蚊帳の外に何者かの気配を感じ、心臓が跳ねる。中を窺っている様子にまさか曲者では身体がすくみ、息を殺していると待ち望んでいた声が聞こえてきた


「よい…下がれ」


(!…このお声は)


紛れもなくセト様の声だ


…ギシ…、


やはり寝たのを見計らい来たのだろう、念願叶い嬉しい反面複雑な心境である
寝た振りをしつつ何時自然に目を覚ますかを考えていると、寝台が軋みセト様が隣に座られた

「…」
「…」


一向に横になる様子がなくじっと動く気配もない体躯に意を決し話しかけようとした瞬間、突然投げ出していた手を掴まれた



(え…?、なに!?)


「…」


指の間に指が絡んでくる、ちゃんと見たことは無いが大きな手なのだろう、指の先を特に握られ、手のひらを圧迫される


(ゆび、が…)


重なった手のひらから心臓の音が伝わってしまうのではないかと思うほど鼓動が大きくはね上がる、見えない感触がこんなにも鮮明だなんて


(ああ…きっとこちらを見ていらっしゃる…寝相を正したいな…)

せめて足だけでも閉じて、出来ることならうつ伏せになってしまいたい







暫くして、横になる様な布擦れの音とともに手が放される
安堵するも束の間、首筋に何かを押し当てられあやうく声を出してしまいそうになった


(わ、わ、 うそ…)

瞼の裏に影が落ち、うなじにかかる生温い風のようなものから顔を押し付けられているのだと察し心臓がさらに加速する


「…」

やはり脈の早さからお気づきになられたのかもしれない。首にあたる髪がくすぐったくてもういつ吐息が漏れてしまうかもわからず、じっとしていると髪の毛束を一房掬われた


(?なに、してるんだろう)


匂いを嗅がれていた、とは当時つゆも判らずそのまま時間だけが過ぎていく
ようやく解放され、隣から寝息が聞こえてきた時にはすでに夜が明けようとしていた






(20110111)


 
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