zzz           . | ナノ




よくお似合いでいらっしゃいますよ、わたくしめどもも至福のよろこびにございます、本日よりお世話させていただくものどもも明日お目通りかないますでしょうか?……あぁ ありがとうございます、それではどうぞ睦まじくいらして下さいね、おやすみなさいませ



早口で捲し立てた後、そそくさと立ち去られ広い寝室のこれまた広い寝台の上 私は一人になった

(気遣わせてごめんね…)

私が彼女の言葉を遮って一言「嫌だ」とでも言おうものなら今日までの取り決め、そして今日の総てが台無しになってしまうだろう、もちろん目に馴染んだ彼女の顔もだ


だからこれは誰の為でもなく、永きにわたり私に仕えてきてくれた彼女の為だ。と自分に言い聞かせた。

「…」

足音が近付いてきて姿を表したのはつい先程、私の旦那様になった人でこの国の王であるお方だ。
目を合わすこともせず私は座りなおし三つ指をつきお辞儀をする

「ナマエと申します 今宵はどうぞ宜しくお願い申し上げます。」
「よい、そう固くなるな」
「…はい」
「足を崩し面を上げよ」
「…」

足を崩すことはせず上体を起こす。何か言いたげな彼も私と目が合うと口をつぐんだ

「…」
「…」

美しいお方だ、はじめて謁見した時からそれだけは変わらない。ひとたび青い瞳が私を捕まえれば尊ぶに値するほどの戦慄が我が身を駆け巡るだろう、密かにそう思っていた。
それなのに今、私の心は波立ちもしない。それはまだ私が彼の后になると決まる前に聞かされた話の所為だ



冷徹で恐れられた神官。そんなお方が美しき白き幻獣の化身だと言われた女性に出会いはじめて愛を知った。お互いを慈しみ深く愛し合っていた二人を引き裂いたのは女性の死。その悲しみから立ち直られた神官は新しき王となった。そして王に寄り添うように神殿には白き幻獣の描かれた石盤があるという―



私の心はときめき、お伽噺でない真の美談に自らを照らし合わせ心を躍らせた。いつか私にもそんな人があらわれてほしい。そして、その方と生涯添い遂げて―


みたかった。


王の后という娘の誉れに歓び泣いてしまった父母は私にした話など忘れてしまっていて、私は共に歓び合い、訪れることのなかったロマンスに泣くこともできなかった。




「どこを見ている」
「…え」
「どこか遠くを見ていた」
「…」

「私が嫌いか」
「 いいえ」
「では好いているのか」
「…」
「私などに嫁ぎたくはなかったろう」


それはこちらの台詞だ。
好きでもない女でさえ娶らなければならない貴方の立場のほうが余程つらいにちがいない。私ならきっと、気が狂ってしまう


「そのようなことはございません」

「どこぞに好いた輩がいたか」
「いいえ」
「……」

「私は、」
「…」
「私は、誰も好きにはなりません」

「…そうか」
「はい」


この状況からこれからはじまるであろう愛のない行為を思い絶望する。ゆっくりと私を押し倒した彼は私の傍らに身体を横たえる


「こちらに顔を」
「…」
「……ナマエ」
「は、い」
「今更そなたが何を思った所でどうする事もできはせぬ」
「…」
「無論、私もだ」
「…」
「それでも私は、」
















「私はそなたを愛したいと思っている」






手を強く握りしめられた




(だから)(今夜は手を繋いで眠ろう)













「…」


目を開けると心配そうな彼の顔
私の頬は涙で濡れていた



「大丈夫か」
「せと…」
「…ひどく泣いていたようだが」

「…てたの…」
「ん?なんだ」

「夢を、見てたの」

「怖いやつか、」
「ちがう、ちがうの…」





どうしてだろう涙がとまらない

あれは何千年も前の 大昔の 確かに私と瀬人だった。




「…」
「…ひっく…ぅっ…」


何も言わず背中を撫でる彼に心底感謝する。

この涙はきっと  、





「落ち着いたか?」
「うん………あ、」
「どうした?」
「手…」


しっかりと繋がれた手と手。近付いてきた彼の唇が耳をくすぐる



「寝る前に手を繋ぎたいと言ったのはナマエだろう?」
「そうだよね…」
「…おかしなやつだな」
「うん。私本当にへんなやつ…」



ちがうよ先に手を繋ぎたいって言ったのは貴方なんだよって、こんなこと口に出したら困惑させてしまうんだろう。
だから心の中で呟いてゆっくりと目を閉じた



「おやすみ」







その後、彼等がどうなったのか私は知らない。ただ一つ言える事は、

(私、昔から素直じゃなかったんだなぁ)

大昔の私もしっかり恋をしていたということだ


(20091127)


 
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