ツキノヒカリ


空気の澄んだ、冬の夜。
夜空に輝くは沢山の星。

キョンは、そんな夜が好きだった。
だから、特に何があるでもない寒いだけの夜に、散歩へ行こうなどと思い立ったのだ。

ジャケットを羽織い、少し長いマフラーを巻いて。

今日は雨が降っていた。
でも、構いやしない。
傘を開けばなんてことないだろう。
玄関で赤い傘を広げ、静かな夜へと歩みを進める。

田舎だからなのか、それともこの気候、天候だからなのか。
誰とも出会う事がない。

まるで、この世界には自分しかいないみたいな。

ああ、この静けさは閉鎖空間に似ている。
などと、夜に対する微かな恐怖心が訪れた。

そんな時に聞こえる、ぽつ、ぽつん、と傘を打つ雨の音が心地良い。

それから、気まぐれにふらふら歩いていると水音が聞こえた。

ザー。パシャパシャっ。
雨よりも勢いがよく、小さな音。
その音の先を見る。

公園だった。

公園に設置されている水道の水で、こんなに寒いのにも関わらず顔を洗う人の影。

「寒くないのか?」

自然と声を掛けてしまう。
だが、呟くようなその声では水の音に掻き消されるであろう。

しかし、彼――というのは背丈から察した――は、蛇口をきゅっと捻ってから、ゆっくりとキョンの方を向く。

月明かりに照らされ、美形が際立っていた。

月下美人、なんて言葉の意味を眼で捉えた。

涙の様に、目の辺りから零れ、顎から地面に降り注ぐ滴。

きらきらと光って、流れ星の様だった。

「キョン、くん?」

彼に見取れていたキョンは、名前を呼ばれてはっとした。
そうだ、なんでこいつはここに居る。

「こ、いずみ……。」

何をしている、と聞こうとするが彼の声にタイミングを奪われる。

「月、が」

「つき?」

古泉は、軽く微笑む。
月の所為なのか、何時もより艶がある様にキョンの瞳には映った。

「今晩は、月が綺麗ですよね。思わず見取れてしまいます。」

「あ、ああ……」

俺は、月よりもお前に見取れてたんだがな……と心の内で呟くキョン。

そんなキョンの心情を知ってか知らずか、くすっと古泉は笑う。

「……やっぱり、夜空に月があるというのは安心しますね……。」

「……当たり前の事だろ。」

「……そうでしたね。」

なんとなく。
なんとなくだが分かっている。

古泉一樹の考える事。

それは、明日の平和であり、世界崩壊の危機であり、ハルヒや仲間達の事であり……。

ずっと、この日常は守れるのだろうか?
そんな事を考えているのだろう。

キョンと古泉は、かれこれ一年の付き合いだ。
しかも、数々の困難を傍で一緒に乗り越えて来たのだ。……そう思いたい。

「僕は、この光を守らなければ……」

「……僕達は、だろ?」

「ふふ……頼もしいですね、キョンくんは。」


この世界を守りたい。
本気でそう思うようになったのは。

彼、がいるからなのだ。
彼という光を。

守りたい。
この月の光に誓って。

なんて、照れ臭くて言えないけど。

「この空を、守ろうな。」
「はい……この美しい、世界を。」

きっと伝わっているから。

ツキノヒカリ。








――――――――――

2008.2.6

授業中にふと、月明かりに照らされた水も滴るいい古泉(笑)が浮かんだので書きました。






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