サンダーフォレスト

目を開けると、無機質な灰色の天井が見えてドバっと冷や汗が溢れ出す。そして思い出す。

そうだ、わたしはヴィチリダに…

ばっ!と起き上がる。わたしは華族しか使っていないであろうあのベッドで眠っていたらしい。ああ、そうだ。それで意識が飛んだんだった…ひう、と喉が音を立てる。

…いったい、誰が運んでくれたのだろう。

ベッドからそろそろと降りてドアノブを捻り扉を開けた。

「わっ!!!」
「!!!!!」

視界いっぱいに、青年の満面の笑み。
愉悦を孕んだ若草色の目が楽しげに歪む。
わたしのくすんだ肩に千歳さんはぽん、と手を置き驚いたか?なんて抜かしてくる。
はくはくと口を動かし、しかし伝わらないことを思い出しとりあえず手を払い落とす。

「そうか、そうか。そんなに驚いたかぁ…いやーはっはっは、高々ワンピースとサンダル、ベッドで気絶するとは思わなかったぞ、蒼佳ちゃん。ヴィチリダではこれが普通だからな、ま。慣れなきゃやってけないぜ?それに食事はな、驚くなよ、パンだ!白パンだぜ、それにスープ!みそ汁じゃない、あのスープだ!どうだ、驚いただろう?」


……スープ、白パン。

ニマニマと笑っている千歳さん。平気なのだろうか、スープに白パンなんて聞いたことしかない、見たこともない!それが食べられる、しかも毎日?!死んでしまいそうだ、しかし、そうか。そうなると白米とみそ汁は食べれないのか。

「まあ、ヴィチリダに着くまであと5日ある。この船でもヴィチリダと同じような食事を出すから、それで慣れてくれや。ああ、風呂は向こうの扉だ。だが気ぃ付けろよ、カーテン…あー、仕切りの奥にお湯を出しちゃいけないんだ。」
「?」

それならどうやって風呂に浸かるのだろう。もしかしてむし湯のようなものなのだろうか。

「シャワーだ。ノズル…あーあれ、ひねり出すんだ。赤い方をひねれば熱湯が、青い方をひねれば冷水が出る。それをこう…うまい具合に調節して使ってくれ。」

異文化は難しい、まあやってみれば分かるだろう。

そう達観していた過去のわたしを殴り飛ばしたい。熱くて水を出せば冷たく、湯を出せば熱く、おまけにずるりと仕切りの布で滑り頭を強打。熱湯が目に直撃。結局船医さんに洗ってもらうことになってしまった。

こんな調子で大丈夫だろうか。いや、大丈夫な訳がない。五日間のうちになれることが出来るだろうか、とゴウゴウと音を立てる熱風機(ドライヤーというらしい。)に髪を煽られながら考えた。

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