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凌統 彼の幼馴染

 差し出された箱。

 何故か少し震える手。

 顔はいつもよりむすっとしていて頬は妙に赤い。


「……ん」
「いや……●●、あのさ……」
「ん!」


 ……さて、少しこの状況の整理をしたいんだけど、そのためにはまず、俺の幼馴染みについて話そうか。

 まず、今俺に箱押し付けてるこいつは俺の、いわゆる幼馴染みってやつの●●。

 俺というほど歳もかわんないわりに、身長は未だに小喬様よりも小さいし、胸の発育も悪い。さらに性格もなかなか子どもじみてて、よくて天真爛漫。悪く言うと色気がなくて食い気ばかりの怪力乱暴女。

 ●●はもともと呉にいたわけじゃないけど、まだ小さい頃に呉にやってきて俺の親父がよく面倒見ててさ。

 気がついたら腐れ縁みたいにずっと一緒にいたってわけ。

 だから多分、お互いにお互いのことは知りつくしてんじゃないかな?

 で、こいつ数月前までは……



「甘寧はわたしの!」
「いーや、あたしの!」
「わたし!」
「あたし!」
「「……勝負だ!」」



 甘寧なんかに惚れたみたいで、毎回年下の女の子と取り合って喧嘩ばっかしてたんだよね。

 ……ほんと、趣味悪すぎだっての。

 でも、それから数月たったとき、甘寧が●●と喧嘩してた子の方が好きになって、必然的に●●は振られた。


「「……」」
「……ほっといてよ」
「……俺がいるところにたまたま●●がいるだけだっての」
「……」
「……甘寧の見る目がないだけで、その、●●は、性格もいいし……」
「……なにそれ。凌統が私をよく言うなんて槍が降るんじゃ……」
「失礼すぎだっての!
……あー、あんたが明るくなかったら調子狂うんだよ
ほら、別に誰も見てないから……。こうすれば俺にも見えないし」
「……ばか、」


 俺が無理やり●●の頭を自分の胸に押しつけると●●はやっと抵抗せずに泣きだした。

 ●●が落ち込んだとき、泣きそうなときに一緒にいるのは俺の役目で、逆に俺のときに一緒にいてくれるのは●●の役目。

 こういう俺たちの関係はきっと変わることはないわけで。

 で、昨日の夜、尚香様や大喬様、それに小喬様と●●が四人で何やら楽しそうに会話してるの見つけて……、


「で、でも……っ」


 珍しく慌てた●●の声に思わず立ち聞きしちまったんだけど、


「私たち……たら、そうとしか……えない……」
「……かく……明日……伝えて……ね!」
「……大丈夫……から」
「……しやすい……贈り物……してみるとか……」
「……それ……恋だよ……!」


 ……全部聞こえたわけじゃなかったけど、どういう話かは理解できた。

 つまり●●が明日、誰かに告白するということだろう。

 ……ま、誰かなんてわかりきってる。

 あれからもうかなりの時が経ってたけど●●はまだ甘寧が好きだったんだろう。

 ……さっさと諦めればいいのに。

 少なくとも、俺はこのときそう思ってた。


「「……」」


 だけど、その考えは今崩されたわけで、

 もう一度●●を見る。

 赤らんだ頬に、贈り物らしい箱。

 あからさまに緊張してる堅い表情に身体。

 そして昨日の会話。


「……●●、俺がすきだったのかい?」
「!? な、え、は!?」


 勘違いじゃなければ、●●が告白する相手は俺だったってことになる。

 ●●は俺がそう聞くと青くなったり赤くなったりして、そのあと何かに気づいたように怒った表情になるとすぐに顔を俯かせる。


「……まさか、」
「?」
「…………の、」
「●●?」


 表情が見えない●●に俺は戸惑った。

 でも次の瞬間顔を上げた●●は、


「凌統の、馬鹿ーーーっ!!?」
「ぶっ!?」


 俺の顔面めがけて箱を投げつけてきた。

 もちろん油断しきっていた俺はもろにくらったわけで。


「盗み聞きするとか最低だよ!
あーもう、さっきのなし! 間違い!
もう知らない!」


 ……やっぱ撤回。

 こいつが俺を好きなわけがない。


 走り去っていった●●に俺はため息をついた。


(可愛いとか、嬉しいとか思った俺が馬鹿だった!)
(あーもう違う! これは恋じゃない! 恋じゃない!)









深瀬桜鬼様、素敵な作品を誠にありがとうございました!


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