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郭嘉 大人と子供の駆け引き

「ああ今日も可愛いね」


 そういって彼は私の頭を撫でた。その行動に思わずその手を叩き落とす。触れられた場所がやけに熱く感じた。

 彼を勢いよく睨み付けると、そんな私に彼はやれやれと苦笑した。


「いきなり何すんの!?
かっかなんて大っ嫌い!」
「あなたはいつも私にはつれないね」


 大嫌いなんて嘘。
本当は凄く凄く大好きで、おかしくなりそうなのに。

「ねー郭嘉様ぁ」
「おや、何かな?」


 いきなり、今まで黙って私達のやり取りを見ていた女官が、ゾワっとするような猫なで声で彼に話しかける。
 今まで話してた私から、女官に視線を移し微笑む彼に苛立ちを覚えた。

 彼はいつも私を子ども扱いして、他の女達にするように私を口説くことをしない。
 確かに私はまだお酒を飲める歳じゃないし、周りの女性に比べたら、見た目も中身も子どもだけど、私だって彼が好きなのに……、

 なのに、彼はいつも、私を見ない。


「っ! かっかの馬鹿!!」


 私に意地悪く笑う女性の顔を見て頭に血が昇る。
 これ以上見たくなくて逃げた。彼の声が聞こえたけど、そんなの知らない。
 私を見ないかっかが悪いんだから!


「……それで、かっかの前に出るとなんか素直になれなくなって、」
「なるほど。私達の前ではあんなにも素直すぎるというのに、恋とは複雑なものです」


 いつも通り、張コウに相談にのってもらった。え、なんで女性に相談しないかって?

 甄姫様には前に相談したことあるけど、ひらひらの服着せられてかっかの前に行かされて……


「…………、」
「ちょ、黙るな! スルーが一番悲しいんだからね!?」
「! ……あ、ああ。馬子にも衣装、という感じかな」
「は!?」


 ……てな感じで失敗した。かっかがあんな失礼なこと言うほど似合わなかったみたいだし。

 文姫とは、楽器勧められて挑戦したんだけどさ……


「「……」」
「……●●殿は真に私の予想を越えるね」
「どうせ器用じゃねーやい!」


 ……見事に不協和音を奏でたよ。いっそ下手くそって言ってくれた方がまだマシだった。

 王異は……


「郭嘉殿なら、お酒を一緒に飲めばいいわ」
「いや私未成年だし」


 ……うん、失敗。で、もう個人的に女性認定してる張コウに相談をしてるわけです。
 正直、かっかの前だけ素直になれないのが一番の難点っていうか……。
 ていうかさ……、


「私ほんとにかっか好きなわけ?」
「はい? ですが貴女は郭嘉殿に……」
「いや、うん。そうだけど、なんかたまにわかんなくなる
他の人とは確かに違う感情があるのは事実なんだけど、実は一時熱が高ぶってるだけとかでほんとは好きじゃないとか。
それになんでかっかなんだろ、とかさ」
「……では、●●殿は郭嘉殿のどういったところを好きになったのですか?」


 かっかの好きなところ?


「そりゃ、まず顔。」
「……随分とストレートに、いいえ、美しいことは確かに重要ですね」
「あと声とか優しいとこ、それから……」


 次々とかっかの好きなところをあげて見ると、案外ぽんぽんと出てきて自分でも驚いた。

 今という限りある日々を生き抜く彼。
 彼の「遊戯」は本当の意味での「遊び」で、限りあるからこそ悔いのないよう楽しみ、そしてそそ様の天下を生きている間にできる限り引き寄せようとする彼。

 私はそんな彼が好き。
俗っぽいけど彼の、かっかの全部が好きだ。


「……●●殿、恋は人を美しくするものです
そして郭嘉殿のことを考える貴女の表情はいつもより格段に愛らしい」
「え?」
「私から見ていても貴女が郭嘉殿を愛しているのは目に見えてわかりますよ」
「!?」


 あ、あい、愛してるって……!? いや、でも張コウがそう言うなら、私のこの気持ちは本当なんだよね……
 でも、素直になれないし……! いつからツンデレに覚醒したんだよ私!!
 てかそんなに私かっかのこと考えてるとき表情かわるわけ!?


「考えたのですが、●●殿が郭嘉殿に会うときは大抵女性が側にいることが多いのでは……?」
「え! た、たしかにそう、かも?」


 それで毎回ぶちギレて邪魔して、大好きな女性達から嫌がらせ受けてたし……。
 下着脱がしたら何もしてこなくなったけどね


「……そうです!
女性がいないときに目隠しでもして郭嘉殿に告白してみるのはどうでしょうか!」
「……」


 いやいや張コウさん、名案だと思ってるみたいだけど、目隠しって何プレイ!? しかも告白とかなんで急にハードル高くなってるの!?


「郭嘉殿の顔を見なければまだ大丈夫ではないでしょうか?」
「……」


 その手があったか!

 いやでも、かっかって仕事ないとき四六時中女性と戯れてるような……


「そうだよ! かっかっていっつも女遊びばっかで女性がいないときないじゃんか!」
「それについてはこの張儁乂が何とかいたしましょう!」


 ……てか、私がフラれる可能性は考えてないの?


「郭嘉殿」
「おや、これは張コウ殿。
何か私にご用でしょうか?」
「ええ。曹操殿が貴方を探していたようでしたよ
……たしか、倉庫に用があるとか」
「曹操殿が? ありがとうございます。それでは、私はこれで」


 少々疑問に思いながらも郭嘉がすぐさま倉庫に向かうと、曹操らしき人物はおらず、かわりに身長が低く軍では目立ちやすい●●がいた。


「●●殿?」
「、かっかちょっと黙って!」


 こちらに気づいているのに顔を俯かせている●●に郭嘉は声をかけるがなぜか●●は郭嘉に黙るよう告げた。


「……うん、これならちょっと大丈夫かも

あのね、かっか。えとそそ様はここにいないよ
あれは、嘘なの」
「……」


 いつもより様子が違う●●に郭嘉は戸惑いが隠せないが黙って聞くことにした。


「かっかにここに来てもらうために張コウに頼んで、あの、だから、えっと」

「?」


 なんだか落ち着きのない●●は深呼吸をしはじめる。そのとき何故か目隠しをしていることに郭嘉は気づいた。


「……私、親にも素直が取り柄だって言われるぐらい素直らしいのに、かっかの前だとおかしくなる。
かっかが、女性と一緒にいると凄くモヤモヤするし、今日だって私と話してたのにあの人見るからにムカついたし、なのに私にはいっつも子ども扱いするし、」
「!」


 突然言い出した●●の言葉の意味を理解したのか郭嘉は目を見開いた。


「だからかかっかには素直になれなくなって、手だってはたいちゃったけど本当は撫でられたの嬉しかったし、でもやっぱそういう子ども扱いされると悲しいし虚しいし、甄姫様に相談して服着たときも馬子にも衣装って言うし、夜遊びばっかしてるし!

でも、かっかといるとすごくどきどきするし、いっつもかっかのことが頭から離れないし、ことあるごとにかっかだったらって連想しちゃって、かっかの周りにはいっぱい美人さんがいるし私なんかそんな風に見てないのはわかってる。
けど、私はかっかが……!」


 覚悟をきめたように●●が顔をあげて郭嘉に想いを告げようとした。


「待って」
「へ……?」


 が、郭嘉に止められ、間抜けな声が●●からもれた。


「貴方のその言葉を聞きたいけれど、まずはその目隠しを外そうか」
「え、ちょっと待って!!」


 郭嘉は数センチという距離まで縮めると、逃げられないように●●の腰を抱き寄せ目隠しをとった。


「っ、ち、ちかっ」
「……それにね、●●
こういう言葉は男の私から言わせてほしい」
「!」


 自分の名を呼び捨てにし、そう言って微笑んだ郭嘉に、●●はただでさえ赤い顔をさらに真っ赤にした。


「私はあなたが好きだよ
本気で愛している」
「っ」


 普段微笑みを絶やさない郭嘉の真剣な表情に、嘘ではないと●●はわかり、思わず涙が溢れる。
 夢でも見ているんじゃないかと頬をつねるが痛みはしっかり感じていた。


「あの服だって似合っていたけれど、あなたがあまりにも愛らしくて他の男に見せたくなくて、つい嘘をついてしまったんだ」
「!?」


 まさかの衝撃事実に●●の頭はどんどん真っ白になりそうだった。
 それでもまだ肝心の言葉が言えていないと意識をぎりぎり保つ。


「か、かっか!」
「うん?」
「わ、私も、かっ、かく、郭嘉が好き……大好き!」
「!」


 今度は郭嘉が真っ赤になる番だった。
 ●●は今まで郭嘉のことを「かっか」と呼んでいた。理由としては何回呼んでも郭嘉と言えずかっかになってしまっただけであったが、それでも、●●が「郭嘉」と自らの名を呼び、好意を伝えてくる姿に郭嘉は胸が高鳴った。


「……あなたは、本当にいつも私の予想を越えてくれる。……うん。私も負けてはいられないかな」
「え」


 郭嘉は不敵に、そして妖艶に微笑むとそのまま●●の顔を近づき、


「っ」


 額に口付けた。正直口にされると思い、目を白黒させ戸惑う●●を見て笑った。


「ここは、あとでたっぷりと、ね?」
「!!? な、へ、へんたい!」
「おやおや。けれど、好意があるとわかっていれば、素直ではないのもとてもいいね」
「こ、この馬鹿郭嘉ーー!!」



 まだまだ二人の駆け引きは終わらない。


(さて、これからはどんな風にあなたと過ごしていこうか?)
 





深瀬桜鬼様、素敵な作品を誠にありがとうございました!


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