甘寧 本日、晴天につき侵略
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「邪魔だよっ!」
少女は武器を振り上げ襲いかかってきた山賊を蹴散らした。
体力もそろそろ限界になってきているのにもかかわらず、彼女は走り出す。
生きるために。
逃げるために。
数時刻前、少女●●の村は山賊たちに襲われた。
村は焼き払われ、村人も何人も殺された。
両親に言われるまま、●●は双子の姉とともに村の外へ逃げた。
が、極度に方向音痴だった●●は見事に迷子になり、姉とはぐれてしまったのである。
「お姉ちゃん、どこー!?」
一方そこから少し離れた場所では、
「しかし、今日は本当によく晴れていますね」
呉軍の男、陸孫が空を見上げて言ったその言葉にその場にいた何人かも同じように空を見上げた。
たしかに気持ちのいいぐらいよく晴れていた。
まさに快晴といえるだろう。
呉軍がこの場にいる理由。
それは、呉がおさめる領地であるこの地の視察のためであった。
もちろん孫権が信頼している数人のものだけだが。
そうのんびりと会話をしていたそのとき、
わずかにだが、陸孫たちの耳に金属が打ち合った音が聞こえてきた。
「「!」」
もう何度も戦を経験していた彼らは気づいた。
その音が、武器の音であることを。
その場の空気は一瞬で冷えた。
警戒し、武器に手をかけたそのとき、少女が現れた。
あちこちぼろぼろな身なりをしている少女は、血に濡れた槍を手に持ち、必死にこちらの方へと走っている。
「っ!」
少女はこちらを視界に入れると目を見開き、とたんに希望や喜びに満ちた表情になる。
しかし、少女を後ろから山賊らしき男が狙っていた。
呉軍を見て油断している少女は気づいていない。
「危ない!」
状況を予測した陸孫はすぐさまその山賊を切り伏せる。
「あ……、」
「大丈夫ですか?」
「は、はい! ありがとう、ございます」
呆然としていた少女に陸孫が優しく声をかけると、ハッとしたように返事をする。
「あ、あの、呉の軍の方々ですよね?
私たちの村が山賊に襲われてて……!」
必死に説明する少女から事情を聞き、彼らは村の方へと馬を走らせた。
「いっ!」
いまだ山賊と戦っていた●●は、山賊にやられた肩の傷に顔をゆがめた。
その隙を見逃さず、山賊は●●に襲いかかる。
(◯◯、死ぬの?
こんなところで……、こんなやつに……?)
「ぃ、やだ……」
死への恐怖に後ずさる●●、だが無情にもそんな●●めがけて剣は降り下ろされた。
「っ」
「……?」
痛みも衝撃もなく、●●は恐る恐る目を開けた。
「がっ」
「え!?」
そこには鎖が巻き付き悲鳴をあげて倒れた山賊の姿。
その様子を呆然と見ていた◯◯はすぐそばの崖に誰かがいることに気がつき、振り返って見上げる。
「鈴の甘寧推参したぜ!」
「鈴の、甘寧……?」
高らかに声をあげる男をぽかんと見上げながらも、●●は今自分を助けたのはこの男、甘寧であると理解できた。
(この人が、◯◯を助けてくれた……?)
たまたま太陽の光が甘寧の後ろにあったため、●●から見て逆光に当たった甘寧はとても輝いて見えた。
きゅんっ
(なに、これ? なんか、体が熱くなってきた
しかもすごい心臓ドクドクいってない?
あ、あ……、もしかして◯◯、この人のこと……)
「あ、あの……!」
「?」
気づけばすぐに●●は甘寧に声をかけていた。
甘寧も●●が助けを求めてきた少女にそっくりなことから家族だと予測し、警戒はせずに聞く体制に入る。
「すっ好きです! 一目惚れしました!」
「は……はぁあぁああぁっ!?」
甘寧は顔を真っ赤にしてそう言った●●の言葉に理解したのか、絶叫し、思わず足を滑らし崖から●●のいる場所まで落ちた。
二人の周りにいた兵士や山賊も呆然とした顔で二人を見つめている。
「いきなりすみません!
知りもしない女に告げられるなんて気持ち悪いですよね!?
でも好きなんです!
さっきから心臓うるさいんです。あなたにあってから体が熱いんです!
好きです!」
「っ!?」
もはやめちゃくちゃな発言になっているが、それでもとにかく熱烈な想いを告げてくる●●に、普段女っけがなく慣れていない甘寧も動揺してたじたじになっている。
というか、耳まで真っ赤にしている。
一時停止をしてそんな二人を見ていた彼らは思った。
((よそでやれ))
その後、呉軍に保護された●●は双子の姉ともども呉軍勢力の仲間入りとなり、
甘寧をひたすら追いかけ回す●●の姿は毎日恒例の出来事となった。
本日は晴天。
今日も少女と男の足音と鈴の音はなっている。
深瀬桜鬼様、素敵な作品を誠にありがとうございました!
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