小説 | ナノ




楽進 朝陽の中で

 遠くで私の名前を呼ぶ声がした。


 ◯◯がうっすらと目を開ければ見慣れた人の顔が映る。その人の真っ直ぐな瞳が眩しくて再び目を閉じようとすれば「もうお昼ですよ」と声をかけてきたので、目を閉じたまま「まだ朝でしょ」と答えれば「ばれてましたか」と苦笑交じりの声が返ってきた。
 楽進は嘘が下手だ。◯◯が相手でも君主の曹操が相手でも友人の李典が相手でも下手な態度は変わらないのに嘘をつくときになると目を左右に動かし声がうわずる。それは彼の最大の長所であり短所でもあるだろう。人を騙すというのは人間関係でも戦でも必要なことだ。それができないということは彼の性格が樫の木のように真っ直ぐなことを意味している。
 そんな素直な彼が愛おしいというように手を伸ばせばその想いに応えるように手を握り返してくれる。楽進の温もりが手を通して全体に伝わっていく。

「好きだよ」

「私も好きです。●●殿」

 時が進むのを忘れたような穏やかな時間は流れて行く。再び目を閉じると彼の手が離れていった。一瞬空しさを感じるが隣でドサリと音がした。そしてすぐに抱きしめられた。
 今、自分を抱き枕にしている男性は周りにいる人達と比べると少し小柄である。まだ誰とも付き合っていない時は背は高い人がいいだとかかっこいい人がいいだとか散々言っていたが恋は盲目とは良く言ったもので好きになってしまえばそんなものどうでもよくなってしまう。
 こんな世の中だ。この幸せを噛みしめることなく死んでいく者もいるだろう。●●は今の幸せを十分に感謝し、楽進の腰に回す手を更に強めた。この時間が永遠に続くようにと。




ハリネズミ様、素敵な作品を誠にありがとうございました!


作品一覧へ




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -