小説 | ナノ




馬岱 君の背中に飛び付きたいのは別に愛してるとかそいうんじゃなくて、突き詰めて考えるとただの衝動なんだよね


妖蛇討伐軍にはここ最近皆の注目を集める光景があった。

「●●ー!」
「うぎゃあああ!!」

突如、自分の背中に飛び付いてきた”もの”にすっかり油断していた●●は陣地内のど真ん中で、
それはもう女を捨てたかのような叫び声を上げた。

「――っ、馬岱さあああんっ!!」

目の端に涙を溜めた●●が、顔を真っ赤にして自分の背中に飛び付いてきた者―馬岱をギンッと睨みつける。
だが馬岱と呼ばれた男は、そんな●●の表情を見てもにこにこ笑いながら「ん〜なあに?」と軽い口調で答える。
「…いい加減、こういう行動は止めてくれませんか?」
何度も言っていますけど心臓が持たないんですよ色んな意味で!と、
頭から湯気が出そうな勢いで●●は自分の背後から回されている馬岱の両腕をばりっと音が出そうな勢いで剥がす。
「えーだって「だってもこうも無いです!!」
ぶーと口を尖らす馬岱に●●は「なんですかその態度は!?」と、完全に怒りが頂点に達してしまったのか、
そこに直りなさいっ!と言いながら、ぎゃーぎゃーと大声で馬岱に説教を始めてしまった。


「おーおー、こりゃまた何の騒ぎだい?」
「…最近の見物騒動ですよ」

そんな馬岱と●●の騒動を遠くから見つめていた左近の傍に、
今日の仕事をさぼってどこかで昼寝をしていた慶次が欠伸をしながらやってきた。
「んー、馬岱はあれかい?好きな子ほど虐めたいってやつかい?」
「ははは、それも少しは入っていると思いますが―」
コキコキと首や肩を鳴らす慶次をちらりと横目で見た左近はふいっと視線を●●に移し、
「一番の理由は●●がいるからでしょうかね」
自分の顎を手で摩る左近が意味深げに呟いた言葉に、慶次は一瞬「は?」と呆けた顔をする。

「…馬岱殿の親族はもう馬超殿しかいないと聞いています。
真っ直ぐに走り続ける馬超殿を影で支えてきた馬岱殿だからこそ、
この軍の中で自分達を影で支えてくれている●●の気持ちが痛いほどわかってしまう。
だからどうしても●●を自分と重ねて見てしまうんでしょうよ」

「…それが●●に飛び付くのとどう関係があるんだい?」
別にあんなに頻繁に飛び付かなくても良いんじゃないかねえと怪訝そうな表情をする慶次に、
左近ははははと面白そうに笑った。
「それは俺も思いましたけど、…まあ、それは馬岱殿の性格もあるんじゃないでしょうかね」

ようするに本気な子ほど言葉より体で表現したくなるんですよ、あの御仁は。
ぎゃあぎゃあとまだ騒いでいる馬岱と●●を苦笑いしながら見つめる左近を暫く見つめた慶次は、
「…複雑だねえ、あの御仁も」
「ですね」
同情するべきかしないべきなのか呆れた眼差しをする慶次に、ははっと軽く左近は笑った。



その夜。
仕事が終わり、くたくたになった自分の体に鞭を打って●●が自分の天幕に向かって歩いていると、
「●●」
背後から、昼間大喧嘩(と言ってもほとんど●●の方が一方的に怒っていただけなのだが)した相手に声をかけられ、
「…なんですか」
無視をしようとしたが、そうすると昼間みたいに飛び付かれそうなので●●は低い声で嫌々馬岱に返事をした。
「…あーもしかして怒ってる?」
「―怒ってますよ。そりゃあもうあの火山が噴火しそうなほど」
陣営から見える火山を一度見たあと、ふんっと鼻息荒く●●は馬岱を無視して歩き出そうとする。すると、

「…ごめん」

ぽつりと馬岱が呟き、その呟きを聞いた●●は歩みをぴたりと止めた。
「その、嫌がらせのつもりで君に飛び付いているわけじゃないんだ。
君の頑張っている姿を見てたら無性に飛び付きたくなっちゃうわけで…」
「…」
「迷惑かけているんなら、もう飛び付くのは止めるよ。だから―」


俺のことは嫌いにならないで欲しい。


じっと馬岱が真剣な眼差しで●●を見つめ続ける。
暫く●●はそんな馬岱の眼差しを背中で受け止めていたがふと深い溜息を吐き、くるりと馬岱の方へと振り向いた。
「いきなり飛び付かれるのは嫌だけど、一声掛けて飛び付いてくれるのなら…良いです」
ただし皆がいない時にお願いしますよ!と、びしっと馬岱を指差した●●はくるりと馬岱に背を向けて自分の天幕へと歩き出す。
その顔は真っ赤で、自分はなんつーことを言ってしまったんだ!と、恥ずかしさのあまり口元を片腕で隠しながら、
極力背後の馬岱を意識しないように、一刻も早くその場から逃げ出したいが為に大股で先へ先へと歩く。
そんな●●をぽかんと見つめていた馬岱はだんだん口元が緩んでいき、満面の笑顔になると●●のもとへと走り出し背後に追いつくと、

「じゃあ、今なら周りに人いないから良いですよねっと!」
「―っ?! ちょ、ば、馬岱さ、うぎゃあああっ!」

ぎょっとし、抵抗しようとした●●を馬岱は難なく押さえ込み、がばりと勢いよく●●に飛び付いた。






かりん子様、素敵な作品を誠にありがとうございました!


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