想安堵




君には笑っていて
欲しいから。

だから僕は。

僕を犠牲にする事で
それを叶えよう。





『意味分からんし!!』




受話器越しに悲痛の声が投げられる。
叫びにも近いその声に、僕は少しだけ受話器を耳から遠ざけた。




「ごめんね、ポー」

『ごめんってなに!?もう会えないってどういうこと!?』

「ポー、もう少し音量抑えて…」

『抑えれるわけないし!!』




今にも泣きそうで、叫ぶ事でそれを我慢しているかのような声。

震える語尾は、きっと決壊寸前を意味している。




「上司命令なんだよ。だからもう、今までみたいに会うことは出来ない」

『リトはそれで納得したん!?それでいいと思ったん!?』

「うん。だから、ごめん」

『…っ!』




受話器の向こう側で一瞬吸った息は、何のために使われるのか。

目から涙を流す為には使わないで欲しい。
痛む心に、そう願った。




『‥‥イヴァンの、せいなんやね』

「──!?」




涙声のような。それでもハッキリと意思を持った言葉に、今度はこちらが息を短く吸う番だった。

それがあちらにも聞こえたんだろう。
ポーは小さく「やっぱり」と言って、それから少しだけ黙り込んだ。




『…負けたから、リトが、全部背負うつもりなん?』

「ち、違うよ。背負うとかそんな…」

『うちを、庇うの?』

「違うってば」




少しだけ怒りを帯びてきた声音に、隠した心が慌てだす。

声で相手に伝わらないだろうか。
それだけが心配だった。




『うちが、リトのこと好きなの、知っとるよね?』

「‥う、うん」

『じゃあ。こんなことされて、喜ぶわけないのも分かるよね?』

「それは‥っ」

『それは、なに?』




あぁ、駄目だ。
完全に怒っていると確信すると同時。語弊のある言葉と、上手くいかない歯痒さに苛立ちを感じる。

違うんだ。
そうじゃないんだ。

でも伝えたい言葉は飲み込んでしまったから、君に伝える事は出来ない。




『ちゃんと言って、リト!』

「──言ったところで、君に理解出来るかは分からないなぁ」

『っ!?』




柔らかい声に、少し間延びした言葉の端。
急に変わった相手に、ポーは目を丸くしたように息詰まる。

その脳内には相手の顔が鮮明に浮かんでいるのだろう。
今まで出した中でも一番嫌悪するような声で、その名前を吐き捨てた。







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