『──っ、イヴァン‥!』

「やぁ、ポー君。久しぶりだね。傷は治った?」

『今すぐリトから離れろ!!』

「嫌だよ。何で君にそんな事言われないといけないの?」




少し膨れるような顔をして、噛みつくポーに小首を傾げる。

近くに居るとは思わなかったリトは、顔を青くしながらイヴァンに受話器を返してくれと懇願した。


それを見て、にっこりとイヴァンが笑う。

それは一見して無邪気のようで。それでも隠しきれない黒い影が、リトの表情を一層青くする。

何を言うつもりですか。
慌てて聞こうと口を開けば、それと同時にイヴァンが口を開く。


ポーの耳に届いたそれは。
ただの耳鳴りにしかならなかった。





「僕が欲しいのはリト君だけだ。だから、君はいらないんだよ。ポー君」





発せられた言葉に。リトは引っ張っていたイヴァンの服を握り締める。

そのまま見上げたイヴァンの横顔は、とても冷たく笑っていた。




「イヴァンさん‥。なんで‥‥」

「君がなかなか切らないからだよ」




切れた受話器を眺めながら、だんだん視界が歪んでいくのを感じる。

なんで、どうして。

まるで先程のポーのように、子供のような台詞が頭の中を巡る。




「あんな‥、あんな風に言ったら、あの子は傷付いてしまう。自分のせいだと、責めてしまう。僕はあの子に、笑っていて欲しいのに…ッ」

「そう。──なら、君次第だね」




革手袋に包まれた手に顎を取られて、視線が受話器から淡い色をした瞳へと流れる。

雪のような白い髪から覗く双眼が、全てを飲み込むように揺れて。
得体の知れない恐怖に、僕は思わず背筋を震わせる。




「最初にも言ったけど。君が良い子にしていればポー君には何もしないよ。ただし、君が悪い子になったら…分かるよね?」


「‥‥はい」




体温を感じない手に、人らしい感情など見えなくて。



"良い子だね"


そう言って微笑む彼に。
ただ口を噤んで目を伏せた。





君には笑っていて
欲しいから。

だから僕は。

それを叶える事で
救われたいと願うんだ。






†end

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