様に願う




酷い死臭がした。

それは今居る部屋の中からで。
廊下から鼻に手を当てて隙間を覗く。


なんだ‥?


額に嫌な汗が流れる。
服の裾を握った手がカタカタと震える。

不整脈を訴える心臓を抑えながら、震える手で扉を押した。



「…ッ!?」



瞬間に燃え上がる炎。

熱が頬を刺し。
耳に轟音を響かせる。


何故、と。
炎を見ながら立ち尽くす。


何故燃えているのだ。
部屋が、屋敷が、街が、国が。

全てが真っ赤で。
全てが熱い。



「…?」



あれは誰だ?

炎の中で。
誰かが倒れている。


うつ伏せのまま倒れている
その人は、ピクリとも動かず。

嫌な単語が脳裏を過ぎるが、
俺は縋るように駆け寄った。



「…あっ」



近付いて、覗き込んで。
それから驚いたように後ずさる。


口に当てた両手の隙間から
零れた声は驚愕に震え。

足がそのまま動かなくなる。



「え、うそ‥?」



見開いた瞳がその人を写す。


赤褐色の肌に、癖のある髪。

その目を開ければ。
きっと翡翠色の瞳が光る。



「や、だ‥っ」



これは彼だ。
優しかったあの彼だ。

俺を守ると言ってくれた。
大丈夫だと言ってくれた。

その彼が。
今目の前で死んでいる。




「っ…アントーニョ‥!!」




舌先で空回りをする声は。

返事もなく炎に焼かれ。
死臭と共に飲み込まれていった。







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