Other Dream


学ぱろ



付き合い始めて一か月。
幼なじみの元親の仲介で、交換することが出来たメアド。
「くだらないことでメールするな」と怒られてしまうのではないかと、私は送信ボタンを押すことをためらう。
でも、長かった片想いがようやく実ったことがうれしくて、もっと話がしたくて…その衝動にはかえられなくて、私は送信ボタンを押した。

『To:毛利元就
Sb:No title
本文:まだ起きてる?
こんな遅くにごめんね;

今日ちょっと嬉しかったことがあって、元就にどうしても伝えたくなっちゃったの。

あのね、今日久しぶりにかすがと会ったんだ。
かすが…って言っても覚えてないよね;
隣の高校の子で、前に元就と歩いてる時に会った子だよ。

「嬉しそうにニヤニヤ笑いながら歩いているぞ」って言われちゃって…恥ずかしいことにね…//
そしたらかすがが、「あの彼氏のおかげか?」って!
恥ずかしいのになんだか嬉しくなっちゃって…私ったらそんなに元就のこと考えてたのかな?
顔に出るほど考えてたわけじゃないのに…何でだろうね(笑)

つまらない話でごめんね;』

…よし、送信。
本当に下らなくてつまらないメールを送ってから、私は机に無造作に置かれた国語の教科書を見た。
同時に浮かぶのは明日の漢字のテストの存在。
…ちゃんと点数を取らないと、追試になっちゃう。
私は頬をぺちぺちと叩き、机にあるそれとにらめっこをはじめた。


携帯が鳴ったのはそれから数十分後。
彼だとすぐに分かるように設定したべったべたのラブソングが、静かだった部屋に響き渡る。
私はすぐにそれを取り、開いた。

『From:毛利元就
Sb:Re:
本文:構わぬ。
別段遅い時間でも無かろう。

覚えている。

いや、そなたの話は面白い。』

…中身については何もナシ、か。
当然だと思う、あんな日記みたいな文章、私だって返せない。
…そりゃあスルーして当然だよね。

(もしかしたら、怒っているのかもしれない)

どうなんだろう?
いつもと何も変わらないそっけないメール、顔文字も無ければ句読点以外の記号も無い。

向こうにいるはずの元就の顔が、見えないメール。

気がつけば私はメールを送っていた。
それはさっきよりも短くて、どこか冷たい印象を受けさせるメール。
でも、心は込めた。
相手には見えない、私の心。

『To:毛利元就
Sb:Re:Re:
本文:ごめんね。』

それだけ。
それだけを送ってから、また私は後悔した。
何してるんだろう私、こんな短いメールに時間を取らせて、バカみたい。
でもどんなメールを送れば、彼とこの夜を共有出来るのかが分からなくて。

「うー…あー」
なんとなく奇声を発しながら、私は漢字の本に顔をうずめる。
携帯が鳴ったのはそのあとすぐ。
さっきよりも断然早かった。

…元就、だ。
何が書いてあるのか、少し怖い。
携帯を開く手が、メールを開く手が震える。

怒られることには慣れている。
でも、顔が見えないメールは、文字は怖い。

深呼吸を数回だけ。
それから、いつの間にか瞑っていた目を開く。

「…え?」

これは驚いた。
今までに一度も、誰かからこんなメールをもらったことは無かった。

真っ白なメール。
本文が見えないメール。
普通なら本文が無い時は、『このメールには本文がありません』と書いてあるはずなのに、それもない。
「あ、」
そして少し考えて、出た結論。

私は携帯のメニュー画面を開く。
選んだ項目は『指定範囲の選択』、ゆっくりゆっくり本文の背景を白から赤に反転させていく。
結構下のほうまで改行されているメール、そして浮かび上がったのは『好き』の二文字。

私は電源ボタンを連打し、発信履歴の先頭を押す。
さっきの暗い気持ちは、あの奇声はどこへやら。

『…何ぞ』

少しくぐもった声は、照れているときの彼の癖。
文字では、記号では表せられないこの思いを、私は彼に向かって投げつけた。


ノスタルジックメール
…茜から来たメールに、我の顔が緩んだ。ああ、茜はこんなにも我を好いてくれて居るのかと。
しかしこれを率直に伝えるのは気恥ずかしい。故に我は普通のメールを送った後に、今流行りのデコレーションメールとやらを起動した。この感情を白色で隠すために、だ。

メールを送信した後、また新たに茜からメールが来ていることに気づいた。我があのデコレーションメールを打っている最中に来たのだろう。全く、こやつは何を考えて居るのだか。
やはりメールは好かぬ。茜の表情が読みとりにくい、このようなものなど。
…などと考えている間に鳴り響く着信音。響く我が好いて居る声。
『大好き!』
…ああ全く、よう伝わってくるわ。



メール苦手です。伝わりにくいし伝えにくいし。
顔文字も自分の今の気持ちとどこか一致しなかったり。
ところで小説に記号使うの久しぶりだ。


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