―――しっまった、と思った時にはもう遅かった。
目の前がくらくらする。頭が痛い。息が熱く荒い。だけど身体中は寒さを訴えている。
「お前が風邪とか、珍しいな」
例の如く無表情で俺を見下ろす惺。何時もだったらその流し目が魅力的だとか、ぞくぞくするとか、不純な思いを抱くのだが…今はそんな余裕すら無い。
「38度……全く。辛いなら辛いって言えよ。無理しやがって…」
「はあ、」と溜め息。そして「ミッションが無くて尚且つ王留美の別荘に居てて良かったな」と吐き出す惺。全くもって仰る通りです。
「取り敢えず、今日は安静にしておけ」
「…はい」
「何か食べたいものはあるか?」
「んー…何か果物が欲しい」
「果物。分かった。じゃあ適当に買ってくるから大人しく寝てるんだぞ」
俺は素直に頷いた。
(ああ、格好悪い…)
そんな心境に気付いているのか否か、惺は僅かに笑顔を見せると、俺の髪をサラリと撫でて部屋を出て行ってしまった。
そして部屋は静寂に包まれた。
「はやく、かえってきてよ…」
呟いた科白は、驚く程に子供っぽかった。
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