「寝てるのかー?ティエリアー」

そんな声が聞こえたのはお昼をちょっと過ぎた頃。
俺――ライル・ディランディは僅かに開いた扉の隙間から垣間見る。
頬杖をついて眠るティエリアと、その前に立ってじっと彼の寝顔を見ている惺。
「なあー…、風邪…引くぞー…」
控えめに呟く惺。無理矢理起こさない所に彼女の優しさが滲み出ている。
惺は暫し考える。
「起きないとお姫様抱っこで運ぶぞー?」
(お姫様抱っこで運ぶ!?)
それは男の沽券に関わる!
それ以前に惺はティエリアを運べるのか?!
突っ込み所が満載過ぎる。
俺は出ていこうか否か迷った。

「ティエリアー…運ぶぞー…」
ぐるぐると肩を回す。
(心無しか、バキバキ、と骨の鳴る音が…)
準備体操を終えてティエリアに向き直る。ティエリアがお姫様抱っこされる前に出ていくべきか――俺がまだ迷っていた刹那だった。
「……………」
惺の動きが止まった。

(な、なんだ…?)


再び暫し考える。
そしてゆっくり手を伸ばして、
彼の眼鏡を取った。

「………………。」
「………………。」
「………ティエリア…、」
優しく囁く。
「…何時も苦労かけてごめんな…」
「………………。」
「…ありがとう、ティエリア」

(……………。)
心臓を、鷲掴みにされた。
彼女の言葉が、脳を甘く犯す。

「…ん、」
ティエリアがもぞもぞと動く。
それにハッとした惺はゆっくりと「ティエリア?」と囁く。
「…惺?」
その声に、彼女はティエリアの眼鏡をかけて彼の顔を覗き込んだ。
「…探し物はこれ?」
「ああ、そうだ」
惺はクイッと眼鏡を指先で上げる。そして流し目で、
「ちゃんとベッドで寝ない悪い子には、先生お仕置きしちゃうわよ」
(〜〜〜っっっ!!!!!)
や、やばい!今、鼻の奥がツンとした!これ、指離したらやばい。出る。あれが。
てゆーかティエリアはあんなのを間近で見て平気なのかよ…。
チラリとティエリアを見ると、肩を震わせている。
「君はバカか…」
彼にしては珍しい笑みを浮かべる。惺もそれにつられるように微笑んだ。
「惺、」
「ん?」
無言で腕を広げるティエリア。
惺は再び笑った。
そして無言で彼の腕の中に飛び込んだ。
「…久しぶりに、添い寝、するか?」
「いいよ」
「君と添い寝すると、不思議と安心して眠れるんだ」
「ロックオンが怒ってたよな」
「そうだったな」
「…また、怒られるかな…?」
「…そうだな…」
「…そうなったら…、また何時ものように助けてくれよな…」
「…ああ。¨惺は君のフィアンセだろ。少しくらい僕に貸してくれたっていいだろう¨ってね」
ふっ、と微笑み合う。
そして、ソファに二人で倒れこむ。

「おやすみ、ティエリア」
「おやすみ、惺」

二人はそっと目を閉じた。




俺は二人の睡眠を妨げないように扉を閉じた。
「なんか妬けるねぇ」
ボソリと呟く。


時間が掛かっても構わない。
(何時か、俺も…二人のように…)

そう思いながら、その場を後にした。




2012.06.14

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