――これは困った…。
俺、ロックオンは目の前の惨状を見据えながら思った。
事の始まりは数分前。ミス・スメラギが飲んでいたお酒を水と勘違いした惺が一気飲みしてしまったのだ。
……で、どうなったかと言うと、

「ロックオンー…構ってくれよぉ…」

甘えん坊に、なってしまった。

「んー、後でな」
濡れた瞳と火照った顔が理性を崩しにかかる。誤魔化すように惺の頭を乱暴に撫でた。
普段がクール過ぎるから、あまりのギャップに正直混乱している。彼女は酔うと甘えん坊になる、と覚えておかなければ。今後このような事が再び起きたら困る。
…百歩譲って甘えん坊になるのはいいんだ。問題なのは、
「ちぇ…、つまんなーい。ティエリアー…構ってくれよぉ」
俺単品に甘えてくるのではなく、誰にでも甘えてしまう、ということだ。
俺の傍からティエリアの元に走った惺は、そのまま勢い良くティエリアに抱き着いた。
「お、おい…!」
やべ、思わず声が。
そうだ。惺は今酔っぱらっているんだよ。仕方無い。寛大な心で見詰めるんだ。

「惺…離れるんだ」
ティエリアが彼女を諭す。が、満更でもないように見える気もする。
ああー!俺が嫉妬とか…、情けねえ…。
無意識に寄っていた眉間の皺をほぐすかのように指をあてる。そして「ふぅー」と深呼吸。よし、だいぶ落ち着いた。
惺とティエリアの攻防戦はまだ終わらないらしい。
「やだー。だってティエリアいい匂いする」
「いい匂いって…君は動物か」
「んー、ティエリアのペット」
…おい、今の科白は若干ヤバいんじゃないか。ティエリアのペットって………やべ、ちょっと想像しちまった…、あーでもそう言うプレイもあり…?今度試して…っていやいやいやいや。何考えるんだ俺は。
「ティエリアだいすきーっ」
すりすり、とティエリアの鎖骨に擦り寄る惺。あんなこと…俺にだってしてくれないのに…。さっき後でなんて言わないで構ってやれば良かったかも。
後悔先に立たず。
そんな事を考えていたら、扉が開いて刹那とアレルヤがやって来た。
「あー、おかえりー」
ティエリアから離れて頼り無く二人に近付く。
「わ、惺お酒臭い」
「ミス・スメラギのを間違って、な」
「馬鹿か」
刹那が溜め息をついた。うん、その気持ち凄く分かる。
「馬鹿ってなんだよー!」
憤慨した惺が刹那を羽交い締めにする……が、
「〜〜〜、!!!!」
おいおいおい!身長の関係で惺の胸に刹那の顔が埋まってんじゃねーか!!
…羨ましいぜ刹那。かわってくれ。
「惺、!」
バタバタと暴れて抜け出す刹那にショボンとあからさまにがっかりする惺。Uターンして戻ってくる。が、
「ティエリアー…」
俺のもとではなくティエリアのもとに。
仮にも俺達恋人同士だよな…?なんだこの扱いは…。
惺はそんな俺の気持ちにすら気付かずにティエリアの眼鏡を弄って遊んでいる。悔しいがなんだか二人がお似合いに見えてきた。美人って罪…。
ふと、ティエリアが俺を見た。
(………?)
「…惺」
「ん?」
「ロックオンと遊んで来るんだ」
ティエリアの思わぬ科白。俺はそこまで残念そうな顔で二人を見詰めていたのか、と若干悲しくなる。ちらっ、と俺を見た惺はティエリアの言うことを素直に聞くかと思いきや。
「えー、ティエリアがいい」
ぐさ、と俺の心臓に刃が突き刺さった。
(流石に此処まで言われたら挫けるぜ…)
「駄目。ロックオンのところに行くんだ」
「だってティエリアの匂い安心する」
匂いで判断されたのかよ俺…。
つーか俺の匂いは安心しないのか。
「ロックオンの匂いは嫌いなのか?」
俺の心をそっくりそのまま代弁してくれたティエリア。惺の言葉が気になるところ。
「嫌いじゃないけどさー」
まずは第一段階クリア。ならば何故ティエリアなのか。重要なのはそこだ。
「じゃあ何故ロックオンのもとに行かないんだ?」
「だってー…」

息を飲む。


「ロックオンの香り、凄くムラムラする」


――――はあ?

「ム、ムラムラ…?」
「うん、ムラムラ」
きっぱりと断言。

「悪いティエリア」
ティエリアの腕に収まっていた彼女を引っ張り出す。
「こいつ、借りる」
そのままその場を後にした。



「……食われたな。」


刹那がボソリと呟いたのを、俺は知る由もない。



2012.02.29

- 18 -

[*前] | [次#]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -