その女、孤独につき

女の朝は一杯の珈琲から始まる。
自分よりも一回り、…否。二回りも年嵩であるが誰よりも頼りにしている部下から教わった淹れ方である。
身に着ける装飾品や所作、嗜むものまでも紳士を体現したかのような男を薫子は他に知らなかった。彼女の周りには皆、何かしら人間として欠陥を抱えているような者ばかりであるからだ。斯く言う彼女…、太宰薫子も”出来た人間”とは言えないのであるが…
しかしポートマフィア…黒社会という異質な世界に於いて彼女程、男性が”女性”へ抱く理想に近い人間は他にいないかもしれない。
兄とよく似た髪質は艶を伴って背中へと流され、全身オーダーメイドのスーツに身を包む。全身が黒に覆われた所で装飾品に手を伸ばした。
腕時計、ピアス…鞄。そのどれもが同じような色をしている。
四年前、亡くした色だった

──彼の人のいろ、
赤が焼けたような、ルビーでもマゼンダでもワインレッドでもない。緋(あけ)や紅樺のような、陽の下に優しく映えるいろ
面影を求めるように、失くしたものを埋めるように彼女は今日も彼の色を身に着ける
もう、彼女の愛した彼等はいなくても。彼等が去った場所に彼女は今日も立つ
生きる理由を求める為でもなく、何の目的もなく、夢もない彼女はただ、自らの命の使い時を待っている




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