▼Sweet one

おにぎりも、オムライスも、お子様ランチも、全部全部、今まで食べてきたどの料理よりも奥村燐の作る卵焼きは美味しい。
 
 
「奥村燐、お腹が減りました」
 
「ん、そうか。
 じゃあ何か作ってやるから
 大人しく待ってろ」
 
 
はい、と返事をすれば彼は早足で台所に向かう。
 
一人でいては面白くないのでアマイモンも燐に付いて行く。
 
 
「今日は
 何を作ってくれるんですか?」
 
「昨日買ってきた肉があるから
 ハンバーグを作って…
 あとは適当にスープでも作るか」
 
「卵焼きはないんですか?」
 
「あー…、出汁巻き卵のことか?」
 
「多分それです」
 
「お前あれ好きだもんな」
 
「燐の作る卵焼きは
 世界一美味しいです」
 
「そこまで言うか…」
 
 
自分の作った料理を旨いと褒めてくれるコイツは稀に俺たちが寝泊まりしている寮にやって来る。
 
そんなアマイモンを最近愛おしく感じるようになった。
 
 
「ほら、これお前の分。
 テーブルに持って行ってくれ」
 
「分かりました」
 
 
同じ悪魔で兄弟でもあるのにこんな気持ちを抱いてしまった。
 
お前は俺がこんなことを想っているだなんて知ったらどんな顔をするだろうか。
 
なあ、アマイモン。
 
二人分のグラスを準備し、冷えた麦茶を注ぎながら溜め息を吐く。
 
普段の明るい表情でないことに気付いたアマイモンが不意に声を掛けた。
 
 
「何かあったんですか?
 そんなに溜め息を吐いて」
 
「…いや、なんでもねえよ。
 それより卵焼き口に付いてるぞ」
 
 
平然を装ってアマイモンの口に付いていた食べカスを指で掬い、自らの口へと運ぶ。
 
 
「…どうした?」
 
「よくそんなこと出来ますね」
 
「ははっ…だって俺」
 
 
お前のこと、好きだもん。
 
お前が俺を訪ねる度に心拍数が高まった。
 
お前が俺の名前を呼ぶ度に胸が熱くなった。
 
お前が俺の料理を褒める度に辛いことが飛んで行った。
 
お前が俺の、
 
俺がお前のこと、勝手に好きになって、ごめん。
 
口の中に広がる甘さは卵焼きの甘さだけじゃなくて、お前の甘さも入っているのかもしれない。
 
だってお前、名前からして甘そうだしな。
 
>The special sweet one
(とっておきの甘いもの) End
 
 
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アマイモンは燐の手料理に夢中だろうな
と思って書いたお話。


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