▼Mind

「りゅうじ!はやくはやく!」
 
 
黄色の帽子を被ってはしゃぐ燐は初めて行く保育園を楽しみにしていた。
 
俺も今日から高校に入学する、あの有名な正十字学園に。
 
 
「まあ待ちいや、燐」
 
 
中学生の頃、雪の降る極寒の地域で俺は燐と出会った。
 
魔神の落胤である燐は本来実在してはならない存在だった。
 
祓魔師の俺は正十字騎士団から始末するよう命令を下された。
 
 
『殺し方は問わない。
 一刻も早く処分しろ』
 
 
祓魔師になって初めて任された仕事は“殺人”。
 
出来る筈がない、何も知らず腕の中で微笑む子供を殺すなど。
 
 
「……理事長、お願いがあります」
 
「はい、何でしょう?」
 
 
奇抜な格好をする理事長ことメフィスト・フェレスに俺は約束をした。
 
 
「この子は俺が育てます」
 
「はあ??勝呂君、あなた
 事態の重さを分かっています?」
 
「承知の上です」
 
 
真剣な眼差しで受け答えをする俺に理事長も呆れたように溜息を吐いた。
 
 
「…ではこうしましょう。
 もしあなたが魔神の落胤である
 その子を無事人間として育てる
 ことができればあなたの勝ち。
 反対に悪魔に目覚めてしまえば
 私の勝ち、その子を頂きます」
 
「…構いません」
 
 
そう言うと理事長は鞘に収めていた倶利伽羅を幼子に近付けた。
 
 
「最初から炎が出た状態では
 勝負になりません。
 ここはハンデとして炎を
 倶利伽羅に封印しておきましょう」
 
 
幼子が身に纏っていた青い炎は吸い込まれるように倶利伽羅に納まった。
 
 
「では聖騎士達には始末したと
 報告しておきます。
 精精頑張って下さい」
 
「…ありがとうございます」
 
「礼には及びません。…それでは」
 
 
薄暗い洞窟の中で青白い微光を放つこの子を俺は“燐”と名付けた。
 
あれから3年も経っていないのに随分時が流れた気がする。
 
 
「ほな燐、行くで」
 
「うんっ!」
 
 
繋いだ手は小さく俺の手を握り返してくれた。
 
>I feel that it was saved by you
 who must have saved.
(救ったはずの貴方に救われた気が
 します) End


1万打記念TOP