▼Only
「知恵熱やな」
「知恵、熱…?」
「つまり、
テスト前に気合い入れすぎて
勉強したもんやから身体が
ついて行けんかったっちゅー事や」
勝呂の言う通りテスト週間に入ってから放課後は雪男と勉強、その後も自宅に帰ってからノートを写したり教科書の文字を追いかけたりと忙しい日々が続いていた。
「…ほんで、
テストはいつから始まるんや?」
「……明後日…」
溜息を吐く勝呂を見てやっぱり迷惑をかけてしまったと後悔してしまう。
「…今日は学校休め。
学校には連絡入れとったるから」
「……うん…」
「それと、明日も学校休め」
「…え?」
水分を含んだ手拭いが熱を孕んだ頬を拭う。
「明日は俺が勉強教えたる。
せやから今日はゆっくり休み、燐」
熱に犯されて朦朧とする頭ではもう何も考えられない。
ただ、久しぶりに呼ばれたその名前がやけに恋しくて。
「…も、かい」
「あ?何や?」
「もっかい…名前、呼んで…」
近くにいた勝呂に手を伸ばして自らの欲望にすがりつく。
「…燐」
「もっと…」
「燐………満足か?」
「…やだ、まだ…」
足りない、勝呂が足りない。
もっと欲しい…もっと。
「ほんま大丈夫か?
今薬持って来たるから、な?」
「やだ…竜士、行かないでっ…」
「燐……、ぅお!ッ!」
掴んだ腕を引き寄せて寝ていたベッドに押し倒す。
身体を起こした燐は所謂馬乗り状態で。
「竜士…」
力の入らない燐はふにゃりと身体を倒して勝呂の胸に顔を埋める。
突然の出来事に動揺が抑えられない。
「こ、こら!燐退きぃ!」
「竜士は、俺のこと…嫌いなのか?」
「はぁ?」
毛布の隙間から覗く瞳は微かに涙の膜が張っている。
眉を八の字に曲げる燐は「竜士…」と呟いて視線を外さない。
「嫌いなわけないやろ。
燐は大事な息子やからな」
「息子……じゃなかったら?」
「ッ?!」
燐が知る筈がない。
雪の降る出会いの日の話を。
話していない、いや…話せないでいる。
自分を父親だと信じて育った燐に裏切る様な真似は出来ない。
「…な、なに言うとんねや
…息子以外の何言うねん」
「……俺は、違うもん…」
ぱたり、小さな音をたてて落ちた涙は勝呂の服に染みを残す。
「俺は……竜士のこと好き…」
首に絡まる燐の腕は離すまいと最善の力を籠めた。
「おん、ありがとうな。
俺も燐が好きやから」
「……うん…」
背中を叩く手が心地良く感じる。
燐は蓋を閉じる様に重い瞼を下ろした。
>Only for me, it is to have
thought that it was love.
(愛だと思ったのは僕だけ) End
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