▼Smiling
「いーち、にーい、さーん」
「燐、体洗うたるからこっち来ぃ」
「はーい」
湯船に浸かっていた燐は大好きなアヒルのおもちゃを置いて泡だらけの勝呂にすり寄った。
「あらってー」
「体はもう自分で洗えるやろ。
頭洗うたるから目ぇ瞑っとき」
「…りゅうじのけち」
「…ほんなら体洗うたるさかい
頭は自分で洗えよ」
「はーい!」
燐はシャンプーを掌に伸べて楽しそうに髪の毛を掻き回す。
「りゅうじ!見て!アマイモン!」
「はぁ?アマイモンて何や?」
「メフィストの弟!
ハムスターにもなれるんだぞ!」
「なんやファンシーなもん
見つけたんやな…」
折角作った頭の尖りは勝呂の「目ぇ閉じとけよ」の一言で流された。
「あっ!リンスもおれがやる!」
「あかん。
手前がやったら湯冷めするわ」
遠回しに時間がかかると言って手際よく黒髪にリンスを絡ませた。
「流すぞ」
「ん、ぅん゛〜〜…」
何時もは無造作に飛び跳ねている髪の毛も今はお湯のお陰でぺしゃんこだ。
手に取った石鹸とタオルを馴染ませて泡を大量に作る。
このいっぱいの泡で遊ぶことが燐は楽しみなのだ。
「うっは!りゅうじこしょばい!」
「我慢せえ。あとじっとせえ」
「むっ、むり!にゃはははは!」
背中を擦っただけでこれだ。
本人は肩を震わしてくすぐったいと笑っている。
いつものことなので気にせず腰を洗えば見覚えのない痣のようなものに違和感を覚えた。
「ここ、どうしたんや?」
「そこ?」
丁度お尻の上らへんに黒っぽい模様が浮き出ている。
「痛いか?」
押して痛感を確かめるが燐は「ぜんぜんいたくない」と首を横に振る。
「…まあ、
痛ないんやったらかまんか」
この時もう少し早く気付くことができたら燐はあんなにも傷つかずに済んだのかもしれない…
>Your smiling face disappears.
(貴方の笑顔が消えていく) End
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