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呪朱で色々



緑間



涙が流れて止まらなかった。だって、あんな危ないことするなんて思わなかったから。本当に心配したし、不安だった。何より私がいたせいかと思うと不甲斐ない。結果として涙が止まらなくて、泣くのは卑怯だと思っても我慢できなかった。



「みょうじ先輩…俺は別に平気だったわけですし…」
「ひくっ、うぅ…それでも囮とかやめて、欲しかった…」
「それは、その…反省してます」



緑間くんが凄く困ってるのが分かる。でも、涙は止まらない。目元を擦っているとその手を取られる。そのまま腕を引かれ、そっと抱き締められた。慰めるようにぎこちなく背中が撫でられる。驚いたけれど、緑間くんの体温が伝わってきて彼がちゃんと無事だと言うことを教えてくれる。



「…もう、しないでね」
「先輩が泣くのでしません」
「ん」



ギュッと緑間くんの制服を掴んで額を彼の胸へと押し付ける。嫌がられないから落ち着くまでそうさせてもらっていた。もう本当に心配させられるような事は嫌だな。



***


実渕



短くなった髪へと手を触れてみる。肩ぐらいまでの長さになったのは久しぶりだ。半強制的に短くなってしまった髪を実渕さんに整えて貰えたから良かったけど。それにしても何で赤司くんは鋏なんて持ってるんだろ。あんまり考えたくないや。



「はぁ…勿体無いわね。綺麗な髪だったのに」
「でも、あのままだと髪だけじゃなくて首も切れてたかもしれないですし…まあ運が良かったかと」
「そりゃあ命の方が大切かもしれないけど女の子の髪よ?ホントあの化物、許せないわ」



何だか実渕さんの方が女心を分かっているような気がする。あれ、私より女子力高いんじゃないかって気までしてきた。私以上に短くなった髪が気になるらしく、頻りに手で私の髪を鋤いている。正面で向かい合っているから気恥ずかしさを感じていると不意に実渕さんが髪へと口付けを落とした。衝撃で硬直していると二度三度と場所を変えてそれが繰り返される。



「み、実渕さん…!?な、なにして…」
「あら、赤くなっちゃって可愛いわね。早く伸びるようにっておまじないよ」
「おまじないで、そんな事しないです…」
「ふふっ」



あまりにも綺麗に微笑む実渕さんから視線を逸らすと頬に感じた柔らかい感触。とうとう恥ずかしさで私は其処から逃げ出した。背後から実渕さんの小さく笑う声が聞こえてきた。



***


福井



「おい、みょうじ。何時まで拗ねてんだよ」
「拗ねてないです…小さいのは元からですし…」
「くくっ拗ねてんじゃねーかよ」
「わ、笑わないで下さい!」



もう陽泉の人達は皆、大きいからやだ。私の身長をからかって遊ぶんだから。その筆頭である福井さんは未だにちょっと笑っている。俯き加減で座っていれば、何故か急に福井さんが私の頭を撫で始めた。それは、もう乱暴に。お陰で髪の毛がボサボサだ。



「福井さん…!ちょ、やめっ……」
「お前が何時までも拗ねてっからだろ。つーかお前が小さいのは今更だろ」
「確かにそうですけど!」
「おっ、やっと認めたか」



絶対に福井さんにいじられてるだけだ、これ!ボサボサになった髪を一応は直してくれてるみたいだから、そのままでいると立っていたはずの福井さんが膝を折った。そのまま顔を覗き込まれ、咄嗟に仰け反ってしまう。な、なんですか急に。頬へと手が触れ、大袈裟に肩が揺れた。



「その反応やめろ。軽く傷付くだろ」
「え、あ……すいません…」
「少し顔色悪ぃな。あんまり無理すんなよ」
「はい」



返事をすれば、また頭を撫でられる。今度は優しく撫でられ、不覚にも胸がきゅっとした。



***


花宮



どうしよう、閉じ込められた。教室内を探索してて出ようとおもったら、これだ。しかも花宮さんと一緒とか…。何だろ、ちょっと怖い。隣から凄く不機嫌オーラが漂ってくるし。えっと、これって離れた方が良いのかな…?あんまり刺激しないのが一番だよね?



「花宮さん、えっと…私、そっちにいるんで…」
「……」
「え、あの……花宮さん?」



無言で制服の裾を引かれた。え、これは此処にいろと?いや、でも、不機嫌そうだし…。どうして良いのか分からずにいれば、手が離れる。なので離れようとすれば、今度は腕を引かれた。やはり、これは動くなと言う事だろうか。この花宮さんが、そんなことを思うとは思えないんだけどな…。



「花宮さん?」
「……いろ、」
「え?」
「…だから、此処にいろって言ってんだよバァカ!」



バカって言われたバカって。でも、怒るに怒れない。だって、花宮さんの耳が真っ赤なんだもの。俯いてて表情は分かんないけど、顔もそうな気がする。何だか花宮さんへの印象が変わり、大人しく隣へと膝を折った。そうしたら、ちょっとだけ嬉しそうに微笑んだ。何かそれは反則だ。

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