呪朱 | ナノ
追い討ちで結構



本当に何で私は此処にいるんだろ。ぐるぐると巡っていく思考に頭が追い付かなくて、何度もそれを放棄した。けれど、それを阻むようにあの時の事が思い出される。よく生きてられたね。この言葉から私が考えていた以上に此処が相当危険な場所だと容易に想像がついた。私は単に運が良くて逃げられたのだろう。これが先ほど遭遇した化物だったら、どうなっていただろうか。考えただけで背筋が冷えた。鈴の残骸を握り締めたまま話に耳を傾けながら、こんな事を考えているうちに話し合いは終了。また誰かが捜索組として出るらしい。前回はジャンケンなんてもので決めたらしいが、何て運任せなのだろうか。それが嫌になったらしいので今回は、ちゃんと学校単位で動くようだ。



「それでは、海常が行くと言うことで異論はないな。どうやってでもこの学校の見取り図を完成させたいが、無理はしないでくれ」
「ああ、そうだな。取り敢えず…黄瀬ェ、お前ぜってえはぐれんなよ」
「何で迷子になること前提!?俺ガキじゃないんスからね!?」
「パニクって勝手に走り去っていったのは誰だ。笠松が止めなきゃ確実に迷子になってたぞ。そして死んでたな」
「うっ…そ、それは…」



海常の人達が体育館の入口の前で何だか大きな声を出して騒いでいる。それを視界の端に捉えつつ、隅っこの方で膝を抱えながら座り込む。この場において最も役に立たないのは、きっと私だ。せめて迷惑にならないようにしないと。どんどんとマイナス思考になっていく自分が嫌になったけど仕方がない。メンタルの弱さは昔からだ。ちょっとの陰口を聞いただけで落ち込んじゃうほど弱い。……もう、本当にやだ。このままこうしてたら頭がどうにかなってしまいそうだ。他の事に思考を切り替えなくちゃ。誰かと話すのが一番だけど、此処で話せる人なんていない。高尾くんあたりは大丈夫そうだけど、それって図々しいような気がするんだ。しかも彼、緑間くんをイジるのに夢中。緑間くんがキレてるの気付いてるのかな?



「……そう言えば見取り図って言ってたっけ。…………あ、ホワイトボード」



体育倉庫らしきところに埃を被ったホワイトボードが見えた。何もやることがないから、自分が通ってきた道でも書いとくか。そしたら少しは役に立てるか。漸くと思考がプラスへと傾きだし、体育倉庫へと足を向ける。其処があまりに埃っぽかったので急いでホワイトボードを引っ張り出し、マーカーのキャップを開けた。誰もが同じ高校同士で話してるから人目はなく、加えてホワイトボードを挟んでいるから私が何をしているかなんて興味がない人達は気にも留めないだろう。出来るだけ来た道を正確に思いだし、それを図にしていく。確か此処で人体模型に遭遇して、そこから先は何も見れてないんだ。



「それで此処で宮地さん達に遭遇して…それから、えっと――」
「何してるんですか?」
「何してるって……あれ、誰もいない…?」
「此処です、貴女の隣です」
「えっ…?ひ、きゃあああああ!」



思わず叫んでしまった。いや、だって!何時の間に其処にいたの!?と言うか、こんな人なんていただろうか。驚きすぎて座り込んでしまった私を指差して高尾くんは大爆笑。それで漸くと気が付いた。自分があげた悲鳴のせいで注目を浴びていることに。それでもう恥ずかしくて堪らなかった。ううっ、この誰だよ…。影が薄すぎる貴方はどちら様ですか。



「驚かせてしまって、すみません。影が薄くてやっぱり気付いてもらえなかったみたいですね」
「いや、え、あの…こちらこそ…すいませんでした…。一瞬、真面目に幽霊かと」
「そうですか。ボクは誠凛高校一年の黒子テツヤです。ところで朽葉さんは見取り図を書かれていたんですか?」
「あ、うん。此処までのルートを覚えてるだけ…」
「何々、俺も話にいれてー。てか、リアクションやばすぎでしょ、ゆずるさん」



下の名前ですか別に良いけどね。と言うか、絶対に彼の語尾に草が大量に生やされているような気がするのは気のせいだろうか。いや、絶対に気のせいじゃない。馬鹿にされているのか何なのか。疑いの目を向けていると、そんな目をしちゃいやんっと言われて軽く引いてしまったのは此処だけの話だ。何と言うか緊張感がなさすぎる。そんな高尾くんの横で黒子くんが難しい顔をしてホワイトボードを見つめていた。何か可笑しな点でもあっただろうか。首を傾げつつ、その様子を見ていると何て言うことだろうか。黒子くんは赤司くんを呼んだ。あの赤司くんである。私の中でダントツ苦手な赤司くん。綺麗な黒髪の人…実渕さんと同じ高校でバスケ部の主将だと言う余計な情報を思い出しながらジリジリとホワイトボードから離れていく。面白がって着いてくる高尾くんなんて何処かに行っちゃえ。



「あ、何かこっち来た」
「いや、すいません直ぐに何処かに行くんで気にしないで下さい霧崎第一高さん」
「いや、気になるから」



私にそう言ったTHE不良と言うような典型的な格好をした人は、どうやら山崎さんと言うらしい。着いてくる高尾くんが教えてくれた。ちなみに右から花宮さん原さん古橋さん瀬戸さんだそうだ。あ、能面さんとか思っててごめんなさい古橋さん。でも、もうそれしかイメージにありません。失礼な事を考えていれば、反対側にいた赤司くんがホワイトボードを引っ張りながら私を呼んだ。朽葉さん、聞こえてるなら早くしてくれ。ひぃ、すいませんごめんなさい。可笑しいな私の方が年上のはずなのに。萎縮状態で高尾くんを盾にしながら赤司くんと向かい合う。高尾くんがまた爆笑をし始めた。



「ちょ、どんだけ赤司が怖いのゆずるさんってば」
「人と話すのに失礼だと思わないのか?君は年上のはずだが年下に礼儀を解かれるのを恥ずかしく思った方が良い」
「すいませんごめんなさい。でも無理です。赤司くん目力が強いから正直怖いんです」
「直球過ぎるっしょ。やべっ、朽葉さんマジウケる」



ケタケタと原さんが笑っている。ウケない何処にも笑える要素なんてない。ビクビクと怯えているとトドメに宮地さんから怒鳴られた。いい加減に話が進まないだなんて言われても私に話すことなんてありません。赤司くんが怖いからとにかく離れたかった。けれど、溜め息まで聞こえてきてしまったら顔を出すしかない。恐る恐る顔を出すと今吉さんとか大坪さんとか色んな人がホワイトボードを見ていた。何時の間にそんな事になったんですか。あんな落書きみたいな見取り図を見ないでお願い。



「君が目を覚ましたのは図書室で間違いないんだな」
「そ、それが何か……」
「何かもクソもねえだろうがバァカ!普通に考えりゃ、学校関係の情報を集めるなら此処だろ」



殆ど初対面の花宮さんに凄い罵倒された。バカにバカって言ったってバカは直んないっしょ。そんな事を紫原くんが言っているのが、しっかりと聞こえてくる。その横の凄く大きな身長の人がバカだから仕方ないアルとか完璧にフォローでも何でもないことを言っていた。何これ酷い。確かにバカだけと初対面にバカってあんまりだ。ひそかに落ち込んでいると誠凛さんの大きな人に頭を撫でられた。これは気にするなって事で良いのだろうか。



「そう落ち込むなって!バカでもバスケは楽しめる!!」
「バカはお前だ木吉!フォローになってねえし更に落ち込ましてどうすんだよ!!」
「いえ、良いんです……どうせバカですから…」
「朽葉がバカなのは分かったから、さっさと本題に入ろうぜ」
「そうですね。僕達が聞きたいのは、本当に君が目覚めた図書室が渡り廊下の向こうの校舎の一階であったかだ」
「宮地さん酷い…。確かに一階だったのは間違いないです。階段を登ったのを覚えてますから」
「マジで?幻覚とかじゃなくて?お前バカなんだろ?」
「……取り敢えず、泣いて良いですか。さっきから人の事をバカバカとあんまりじゃないですか!特に陽泉の方々!」
「まあまあ落ち着きぃや。ここに自分より救いようがないアホがおるさかい、な?そうやろ、青峰?」
「あ?それって俺のことかよ、今吉さん」



欠伸をしながら青峰と呼ばれた人が私へと視線を向けてきた。顔付きが顔付きだったために無意識に身構えた私に対して彼は、貧乳と呟く。……はっ?えっ待ってそれ関係ある?あれ?可笑しくないか?ピシリと硬直した私に興味が失せたようにその場に横になった青峰くん。今なら君を思い切り踏めそうな気がするよ。いや、確実に踏める。だが、悉く貶され続けてきた事に反論の余地はないために黙るしかなった。



「…それにしても何でそんなに一階かなんて強調して聞くんですか?」
「三人が君を見付けたのが一階だったからだよ。下へ続く階段がなかった故の答えだけどね」



赤司くんの言葉に目が自分でも丸くなったのが分かった。もしかして私、また面倒な問題を持ち込んじゃった?けれど、いくら思い出しても確かに階段を登った記憶がしっかりと残っている。それに忘れるなんてことは有り得ない。もう一度だけ確かにそうだったのかと問われ、迷うことなく頷いた。




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