呪朱 | ナノ
孤独をしっかり煮込んだスープ



「――…いっ……おいっ!!」
「…………え…あ、生きて、る……?」
「どんだけ意識飛ばしてやがんだよ、刺すぞ」
「さ、刺す?」
「元はと言えば、宮地が無理やり引っ張り込んだからじゃん。可哀想だよ」
「ああ?てめぇ葉山、喧嘩売ってんのか」



体を揺さぶられ、目が覚めた。ハニーフェイスの人から発せられた第一声に硬直したまま二人のやり取りを見守る。何だ何が起きてる。話から察するに宮地と呼ばれた人が私を引っ張り込んだ犯人で?じゃあ、あの手はこの人だったのか。あまりにも急な事だったから驚いて意識飛ばしちゃったんだ恥ずかしい。頭を抱えていれば、何処からともなく煩いとの言葉が聞こえてきた。声のする方へ視線を走らせれば、離れた所に腰掛ける能面のような表情をした男子生徒。そこで漸くとこの部屋には自分以外に三人の人間がいたことに気が付いた。それにしても三人とも制服が違う。宮地って人だけが私と同じ秀徳の制服を着てる。



「そんじゃ目が覚めてくれたところで戻ろーよ!」
「ああ。……ぼさっとしてると置いていくけど」
「え、あの…戻るって?と言うか、ここ……」
「話は後だ。良いから早くしろ蹴っ飛ばすぞ!」
「は、はいっ!」



何この人達。一番物騒で怖い人は宮地さんだけど三人とも意味が分からない。葉山さんって人は何か笑ってるし。こんな状況でよく笑えるな。教室を出てみても光景は先程のものと大差ない。だが、三人とも目的地がはっきりしているようで迷うことなく進んでいく。それに置いていかれないように気を付けながら小走りで後を追い掛けた。と言うかデカイ。一様に背が大きいから歩幅から言って違いすぎる。一生懸命、後を付いていくとまた階段を上がって廊下を歩いていく。階段に多少の違和感を感じたこと以外は、今のところは何の障害もなさそうだ。……やっぱり、あれは幻覚でも見てたのかな?人体模型が生きてるって言うか…うっ思い出したら吐きそう。込み上げてくる吐き気を堪え、口許を押さえる。そこで不意に左手が握り締めていた物を思い出した。そっと掌を開けば、金色の鍵が姿を現す。ヒッ、とか細い悲鳴が漏れた。鍵にはこびりついた血のようなものが付着していたからだ。思わず落としてしまい、カランっと音がした。



「どうしたの〜?」
「あ、いや…ごめんなさい…少し、驚いて…」
「驚いた?…これは、鍵か。血が付いてるな」
「拾ったんですけど…血が付いてるの見て、その……」



ひびっちゃったんだね!そう何とも言えないほど直球でこられたので黙って頷いておいた。能面の人が拾った鍵を観察するように見ていれば、宮地さんが微かに焦りを滲ませながら声をあげた。逃げるぞ!その一言に何かが来ているのだと分かる。それは人体模型なのかそうでないのか。分からないが、本能的に感じた恐怖に足が動かなくなる。それに舌打ちをした宮地さんに強い力で手を引かれ、走り出す。



「やっべ!あいつオニ早いじゃん!」
「喋るぐらいなら真面目に走れ」
「つーかお前、足遅い!」
「ご、ごめんなさい!」
「それにしても上半身だけで何故あれほどの速度が出るんだろうな…」
「じ、上半身、だけ……?」
「馬鹿!振り返んな!」



人間の好奇心とはいやに恐ろしい。昔の人間が好奇心は猫をも殺すとはよく言ったものだ。恐怖よりも好奇心が勝ってしまい、振り返ってしまった。そこで後悔。よくあるテケテケのように上半身だけの男が物凄いスピードで追い掛けてきていた。通った後には血の跡が残されており、細かい肉片のようなものが散乱している。再び込み上げてきた吐き気に直ぐに目を逸らして前を向く。あれを見てはしゃげる葉山さんの感性を疑う。そして能面の人の感性も。どうして速いかなんてどうでも良いじゃないか。苦しいのを我慢して走り続け、体育館らしき所へと駆け込む。背後で勢いよく扉が閉まる音を聞きながら体育館内を見つめた。沢山の人がいた。同じ制服を着たグループで固まっており、その視線は一様に此方へと向けられている。生きている普通の人間を沢山見たせいなのか。足から力が抜けてへたりこんでしまう。異常なほどの恐怖を一度に感じたせいか手足の震えが半端ない。やだっ、まだ追い掛けられてる気がする。ぎゅっと目を強く瞑っていると頭を撫でられる感覚に、ゆっくりと顔をあげる。綺麗な顔立ちをした人がいて、その人が頭を撫でてくれているらしい。大丈夫かと優しく問われ、ぎこちなくそれに頷いた。



「ご迷惑をかけて、すいません…」
「あら、気にしなくて良いのよ。女の子がこの状況で怖がるのは仕方ないことなんだから」
「……レオ、彼女は話せそうか」
「ええ、だいぶ落ち着いてきたみたいよ。ほら、此処じゃなくてもっと中に行きましょう」



手を引かれ、何時の間にか大きな円形の形で座っている人達の元へと歩いていく。空いた場所に座り、ぐるりと全員の顔を見てみたが女の子は一人もいなかった。この異常な空間に同性がいないなんて案外と心細いものだ。私以外は、どうやら全員が顔見知りらしい。疎外感を感じないわけがなかった。同じ学校の人間がいると言ったって知らない人だらけだし、どうしたら良いのかも分からない。おまけに警戒されたような視線を向けられれば尚更だ。もうさっさと、この訳のわからない状況から抜け出したかった。膝を抱えながら話を聞いていると、どうやら赤髪の子がこの場においてのリーダー的な役割を果たしていることに気が付いた。容姿は年下みたいなのに態度というか雰囲気が、そう感じられない。俯きがちでいた私の前に不意に手が振られる。それに驚きながらも視線を走らせれば、何だか物凄く爆笑状態である秀徳生が視界へと映りこんだ。



「…な、何ですかっ」
「ぷくくっ驚きすぎっしょ。同じ秀徳だし、自己紹介したいなあって思って。秀徳一年、高尾和成でーす。ちなみにバスケ部」
「あ、……二年、朽葉ゆずる。吹奏楽部、です」
「えっ!?先輩だったの!?じゃあ敬語の方が良かったすか?」
「いや、そのままでも大丈夫なので気にしないで欲しいです…」



じゃあそっちも敬語やめてよ。俺、年下なんだからさ。そう高尾くんは、この場にそぐわない笑顔を浮かべながら言った。それに頷きつつ、よく分からないノリで始まった各校の人達の名前を彼から聞いていく。人数が多すぎて途中で赤髪の子がそれを遮った。そして警戒の色をありありと滲ませたオッドアイが私へと向けられる。話が聞きたい。そう言う彼が私に見せたのは例の鍵だった。




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