まわる運命の輪をつぶせ | ナノ
君が泣くって知ってたよ



寮長の使い魔がパタパタと飛びながら何事かを伝えてくる。この十年で何とか、その意味が分かるようになった私は、その場に硬直してしまった。え、え…どういうことですか?此処に泊まれって死ねってことですか。その場に膝をついて項垂れる私にユイは心配そうに声を掛けてくれる。スバルは何故か知らないが軽く距離を取っている。そして何となしにカナトの顔が笑みに歪んでいるのが分かった。少しだけ顔をあげれば、床に這いつくばる姿がお似合いですとの言葉が歪んだ笑みとともに降ってくる。本当に最低だよ、こいつ。ヒステリーのくせに生意気な…。



「どうしたの?今のコウモリとか…」
「あー、うん…何と言うか、やられた」
「え?」
「同室の子が人狼に襲われたらしくて部屋が血塗れになったから帰れなくなった。その他にも暴れてくれたみたいで寮の損害が酷いらしい。…それにしても、そんな匂いって移るのか…?」
「じ、人狼…?ちょっと待ってっ、どういうこと!?」



あ、そう言えばユイには何も説明してなかったんだっけ。よくよく考えてみれば、寮長のことすら言ってなかった。だけど、面倒くさいんだよね、一から説明なんて。うっかりと口を滑らせたが故にユイは説明をしてとせがんでくるし。…若干、面倒くさい。何でもないと頭をポンポン叩いたところ、納得しないとばかりの表情でその手を掴まれた。いやいや、ユイさん?落ち着いて回り見て?私の命を狙うヒステリックがいるから!



「本当に何でもないから放して。其処にいる逆巻カナトを含めた三つ子に捕まる前に帰るんだから…!」
「つか、お前…自分で帰れなくなったって言ってなかったか?」
「うるさい黙れ」
「ふふっ…ユイさん、そのまま僕を投げ飛ばした礼儀知らずの人間を捕まえておいて下さいね?」
「此方に来ないでよ、あっちに行けってば」
「直ぐにそんな生意気な口を聞けなくしてあげます。ねえ、テディ?何処から穴だらけにしてやろうか?…ふふっ、そうだね。そこからにしようか」



嫌だ、本気で怖いんだけど。吸血鬼とかそんなの抜きで怖いんだけど。人形と話してる時点で危ない奴だって。しかも、何処から穴を開けるつもりなんだろ…うわっ、考えたくない。関わると面倒くさいと思ったらしいスバルは黙ってるし、これはいよいよ危ない。だから頼むよ、ユイ。放してくれ。ホント、お願い頼むから。これで残りが来たら本気で…。



「ビッチちゃーん、見付けたよー!」
「オレ様の手を煩わせやがって!」
「うわっ…ざけんな、こっち来るなよ特に変態!ユイも放して」
「やだダメ!説明してくれるまで放さないから!」
「聞き分けのない子供みたいなこと言わないでよ!」



ユイをくっ付けたまま、ズルズルと三つ子から距離をとるために後ずさる。だけど、そんな事をしたところで距離が開くはずもなく、寧ろ段々と縮まっていく。ギャーギャー何やら喚くので、それに伴って此方の声も少しずつ大きくなっていくのが分かる。さっさと吸わせろ!誰が吸わせるか!等々。それにしても、しつこい。何てしつこいんだ、特に変態とヒステリー。後者においては根に持ちすぎだ。そして今まで黙っていたスバルも煩いとキレ、いよいよ煩くなって来た頃にメガネの吸血鬼が姿を現した。…何か鞭持ってキレてるんだけど何あれ変態か。寮長と相性良さそう。



「この騒ぎは何ですか!?耳障りな声で喚き散らすのも大概にしなさい。さあ、答えなさい。この騒ぎの原因はどなたです?まあ、聞かなくてとも分かりますが」
「私を見ないで欲しい。此方は被害者。元凶は、そこの三つ子。ついでに人が帰ろうとしてるのに妨害するユイ」
「ちょ、ユキ!?」
「許せ、ユイ。我が身が可愛い。そして大人しく帰してくれないのが悪い」



そ、そんなの…ユキが心配だから…。その言葉を耳にした途端に頬が引き攣ったことを自覚する。あ、ヤバイ泣かした。ひくっ…うう……。泣き声をあげながら私の服を掴んで泣くユイに一気に罪悪感が込み上げてくる。こんな、つもりではなかったのに。懸命に宥めようとすると胸に引っ付いて泣き始めたのでオロオロしながら頭を撫でていると小学生のようにアヤトとライトが泣かせたと囃し立て始める。正直、うざい。死ねば良いのに。吸血鬼ハンターって何処に行けば沢山見付かるかと考えていれば、溜め息を吐きながらメガネの吸血鬼がリビングへの移動を提案してきたので大人しくそうすることにした。早く帰りたいけど帰れないし。あ、でも、意地でも別のところに泊まるから。リビングに行く間も泣きながらユイは私の服を掴んだまま着いてくる。どうやら放すつもりはないらしい。目的地に着けば、ダル男がソファーを占拠していた。取り合えず邪魔だ。そう思った矢先にスバルによって蹴落とされていた。



「いった…何だよ……」
「さっさと退けよ、シュウ。おい、ユイ座らせろ」
「おー。ほら、ユイ………ねっ、逃げないから放して。そろそろ服が伸びるし、この体勢は疲れるから」
「ううっ…ぐすっ、ひく……っ」



…あ、ダメだ。悪化した。どうしても放したくないらしく、放そうとしたところ更に泣かれたので渋々とユイの隣へと座る。そうしたところ、いよいよ泣き付かれ、完全に逃げ道を失うこととなった。しかし、このダル男、まだ寝ようとしてるんだけど。しかも床で。だが、ユイの泣き声に眠れないらしく、舌打ちをしながら怠そうに上半身を起こした。



「それで、何があったんですか?ライト辺りが貴女を連れ込んだことは分かりますが…彼女が、どうして泣いているのか分からない以上は泣き止ませることも出来ませんし。まったく厄介事を…」
「原因って言ったら、あの女からの伝言でしょう?人狼が出て、そこのエサの寮が大損害らしいです」
「人狼ー?何でそんなのがビッチちゃんの寮に?もしかして、説明してってそれのこと?」
「ああ。こいつが説明しねえから」
「どうでもいいから早く泣き止ませろよ。うるさくて寝れない」
「はぁ…穀潰しの言う通りに早く泣き止まさせなさい。説明なんて簡単でしょう」
「だが断る」



そう言ったところメガネとダル男に思い切り睨まれたが、それどころではない。今は本日の寝床を探すことに必死なんだ。ユイに密着され、右手の自由が利かないなかで左手のみで液晶をタップしていく。くそっどいつもこいつも断りの連絡ばかりしやがって…。このまま此処に泊まるものか。絶対に嫌だ。だが、泣き止まないユイに関しては此方にも非があるのは確か。なので端的に人狼って言う魔族のバカ野郎が襲ってきただけだから何の問題もないと言ったところ、ふざけんなとキレられた。わあ、理不尽。説明したじゃん。そんなことより本日のお宿が見つからねぇ…これ詰んだよ。



「まだ何かあんだろーが。隠してねぇで、さっさと白状しやがれ」
「寮に帰れないって言われたんですよね?部屋が血塗れだからって」
「じゃあ泊まっていけば良いんじゃない?そしたらぁ、ボクとイイコト出来るしさ」
「それが嫌だから必死に宿を探してんだよ黙っとけサノバビッチのクソ野郎」
「…お前、ライト相手だとすげえな」



当たり前だよ、こんな変態のせいで偉い目にあったんだから。イライラしながら端末を弄っていると何処からともなくまたもや現れたコウモリ。それを見た兄弟全員が機嫌を悪くしたのがよく分かった。何て言うか正に犬猿の仲、だな。コウモリが消えたかと思えば、背後からの圧迫間。鼻先を掠める香水の匂いに誰だか、直ぐに分かった。



「…寮長、」
「もう大変なのよ。ユキと間違って襲われた子なんて重症だし、あの人狼ったら怒り狂って面倒くさいの何の。あんな事をユキがしたからよ!」
「あー、ごめん。人狼関係は心当たりがありすぎて判別つかない。そんでもって面倒なこと口走らないでくれないかな」
「あら、何でこの子泣いてるのかしら?そこの変態どもにイジメられたの?可哀想、うちの寮に来ないかしら?可愛がってあげるわよ」
「おい、変態女!くせえ臭いさせながら変なこと言ってんじゃねえよ!!」
「不可抗力よ!襲われた人間の血が死ぬほど不味い臭いしてたからいけないんじゃない!!」



ああ、つまり血の匂いがしみついて臭いと。こいつら、どんな嗅覚してるんだか。最早、犬並みだよ犬並み。しかも、ナチュラルに人の話は無視か。漸くと落ち着いてきたユイの背中を撫でながら、その目に浮かぶ涙を拭ってやる。さて、どうやって説明しようか。


<<>>


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -