まわる運命の輪をつぶせ | ナノ
蛇の目でないと迎えは来ない



目の前に立ち塞がった男の他に人がいることに気が付いたのは、そのすぐ後だった。案内をしてくれた男を含めて六人。つまり、この六人とユイは暮らしているわけだ。これは、些か問題があるような気もしてならない。現に今も訳の分からない状況になっているわけだし。話によっては、ユイをうちの学校に移すべきかな。寮長に頼めば何とかなりそうだし。思考を動かしている間にユイと何やら言い争っていることから意志疎通は可能と見た。だけど、どうもユイの方が下手になってるのが気に入らない。



「そもそも何で皆さんが集まってるんですか。ユキは私に会いに来たのに」
「美味そうな匂いがしたから」
「ど、どうして、そういう事を言うんですか…!」
「お前の妹なら美味そうだろ。何か間違ってんのかよ」



……あー、話が読めてきた。そして嫌な予感とユイが私を外へと出したがった理由がよく分かった。つまるところ此処は巣窟か。こんな所にユイを放り込んだ父さんをどうしてやろうか。一発殴るだけじゃ足りないぞ。それにしても…寮長の奴、知ってたなこの事。だから、あんなことを言ったのか。こう言う大切なことは事前に言えよ。殆ど手ぶらも同然だよ、お陰で。それにしても、こんな危険生物からユイを引き剥がすのには苦労しそうだな。下手したら危ないし。目の前の奴等を無視し、思考を回していると帽子を被った吸血鬼が唐突に目の前に現れる。相手は、にっこり笑顔であったが、危機感に私の体は咄嗟に動いてしまう。その結果として問答無用に男の鳩尾に蹴りを入れていた。



「近寄らないでよ、吸血鬼」
「ユキ…!?何で、知って…」
「話は後。……あ、寮長?迎えに来てくれるんだよね。黙ってたんだから、そのぐらいしてよ」



唖然とするユイに待ったを掛け、寮長へと電話をしてしまう。聞こえてくる笑い声に早々に通話を打ち切った。さて、どうしたものか。上手い具合に決まったらしく、床には転がっていないものの腹部を押さえる吸血鬼を睨み付けた。何だか、以前に何度も襲われかけたから咄嗟にやったけど本当に丈夫だよな、こいつら。護身用のナイフとか物騒だから持ち歩きたくないんだけど…今までのとは何か違う感じがするんだよね。そう、寮長みたいな感じ。例えるなら今までのが下級で寮長達が上級吸血鬼みたいな。そんな事を考えていると背後に軽い衝撃を感じた。どうやら寮長が来たらしい。



「寮長、これ知ってたでしょ」
「あら、何の事かしら。私は、ただちょーっと知り合いかもって思っただけだもの」
「最悪」



睨み付けたところで寮長の笑みは崩れない。首に腕を回されるのは嫌いだが、迎えに来て貰った身だ。我慢していれば、やはり顔見知りだったらしく会話を始める。けれど、それは不穏な会話だったのは言うまでもない。人の耳許で騒ぐな、煩い。そんな意味を込めて思い切り寮長の足を踏んでやった。黙ったが、代わりに腕へと力が込められる。しまった、この変態寮長、痛みで興奮しやがった。



「どうしたのよ、ユキ。何時もならもっと痛くしてくれるのに」
「うげっ、相変わらずかよ。変態女」
「変態は、ライトだけで十分です。しかも人間如きに痛め付けられて興奮するなんて信じられませんよ」
「ちょっと、そいつと一緒にしないでよね」
「私もあんたと一緒にされるなんて屈辱的だわ。さっさと消えてくれたら良いのに」
「頭が可笑しいのは、どっちもどっちだろ」
「そんなことより、あんた…何時になったら卒業するわけ?」
「全くです。十年も居座り続けるなんて、どういう神経をしてるんですか?」
「あら、私の勝手よ。十年も居たお陰で、この子と同じ学校になれたんだもの」



いや、私はなりたくなかったけどね。十年も付きまとわれれば嫌になるでしょ。軽くストーカーみたいだったし。それでも十年も付き合ってれば、それなりに信頼関係は出来てくるものだ。ユイにも教えていないことを寮長は知ってる。初対面の時点で普通じゃないって気付かれていたぶん、話すのは必然だろう。それにしても、そろそろ鬱陶しいな。首回りを触られるのは気持ちが悪い。言っても離れないのは目に見えていたので無言で背中から引き剥がした。にしても、ユイに会いに来たのに邪魔ばかりが入る。苛立ちから頭を掻きつつ、左腕の時計へと視線を落とす。門限までおよそ二時間。こいつらと関わっていたら時間がなくなってしまう。どうせ寮長も話してるんなら、そのうちにユイと外にでも行くのが最良か。



「ユイ、時間なくなるから行こう?」
「でも、良いのかな…?」
「寮長なら気にしなくて良いよ。積もる話もあるみたいだから邪魔したら無粋だよ」
「そっか」



何てユイは丸め込みやすいのだろうか。これでは不安が薄れるどころか濃くなっていくような気がする。彼女の手を引いて外に出ようとしたところで、またもや入る邪魔。無意識に寮長を睨み付けていたらしく、踏んで蹴って殴ってと無駄なアピールをしてくる。…本当に死ねば良いのに。そこの六人と話してれば良いのに何で此方に絡んでくるのかな。下手にユイの前では暴れたくないのにさあ。



「一時間ぐらいユイと話させて。それまで此処に居なよ。お友達なんだから」
「お友達なわけないじゃない。こーんな可愛くもないガキとなんて嫌よ嫌。でも、ユキが少しでも血をくれるなら考えるわよ?」
「……失せろマゾ女」
「虫けらを見るような目で見るぐらいなら殴って欲しいのだけど…もうっ素直じゃないわね!!」



興奮してる寮長って話が通じないから嫌になる。ホントどうしてやろうか。お望み通りに殴って気絶でもさせたいところだけど、そう簡単に気を失うようには見えないし…何よりそんな芸当は出来なくなってる。普通の人間の力だと吸血鬼相手じゃ分が悪いに決まってるし。小さく溜め息を吐き出し、へばりつく寮長の頭を掴んで引き離そうと試みたものの、馬鹿力で無理そうだ。しかも、服に寄る皺が酷くなってる。これは、もう諦めて帰るしかない。元々、寮長には迎えに来て貰ってたんだから仕方がない。久しぶりに会うユイと全く話が出来なかった事は悔やまれるけれども。



「ごめん、ユイ。今日は帰るよ。このクソ寮長が邪魔だから」
「え、あ…うん…」
「また近いうちに会いに来るよ。こいつらが居ない外でだけど。昼間とか大丈夫?昼夜逆転してるっぽいけど」
「あー…ちょっとキツイかも。でも、頑張るから。ユキこそ大丈夫なの?」
「多少は大丈夫だよ。夕方とか出歩くと変なのが着いてくるし」



ユイと話してるとボク達って空気になってない?とかの会話が聞こえたけど無視だ無視。お前らなんて空気で十分。私とユイの邪魔をするぐらいなら、その空気であることすらウザいけど。日時は後で連絡しようかと思ったが、我が姉は奴等に携帯を壊されてしまったらしい。道理で連絡が来ないと思ってた。聞かれるのは嫌だったが、明後日の午後三時に約束を取り付けておく。時間帯を聞いてあからさまに顔を歪められたが、お前らの事情なんて知ったことではない。


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