まわる運命の輪をつぶせ | ナノ
最愛なる厄日



さて、どうしたものか。ナイフを構えたものの実を言うと人狼相手では非常に分が悪い。此方は一般的な人間よりも身体能力が高いだけで昔のような力はない。一方で相手は身体能力は言わずもなが、力関係的にも強い。加えて言うなら、噛み付かれたら一発でおしまいだろう。あー、詰んだなコレ。取り敢えず噛まれないように注意をしまして…それにしてもまだ気が付かないとか寮長も含めて吸血鬼の奴ら大丈夫なのか?そのうちハンターとかに寝首掛かれてそう。そう思った矢先に背後から人狼が襲ってきた。それを何とか避け、その顔を確認する。うわー、本当に五年前の奴だ。隻眼の人狼から距離を取りつつ、舌打ちを漏らす。何でこんなにしつこいんだ、こいつ。



「随分と動きが鈍ったんじゃねえか?」
「はっ、私と間違えて他の人間を襲ったあんたこそ嗅覚が鈍ったんじゃないの?五年も経って、また来るなんてしつこいんだよ。ハンターにつきだしてあげようか?」
「ハンターごときが俺に勝てるとでも思うか?何人も食ってやったぜ。…その分、テメェにやられた傷がどうしても気に入らなくてな…毎夜毎夜疼くんだよ」
「へえ、御愁傷様。此方も半月まともに動けなかったんだから痛み分けなんじゃない?」



傷が疼くとか知ったことじゃないんだけど。今日と言う今日は本当についてないな。飛び掛かってこられると困るので、さっさと距離を開けてしまう。呼吸を数えつつ、意識を集中させる。赤い舌が舌舐めずりしたかと思えば、次の瞬間には眼前に鋭い牙が迫っていた。反射的に下から蹴りあげ、その口を閉じさせる。あー、絶対に舌噛んだな彼奴。はっ、ざまあ。だが、至ってピンチなのは変わりはしない。余計に怒りが増幅したらしい人狼に、そろそろお引き取り願いたいと本気で思った。と言うか彼奴ら、本当に何時になったら気付くのかな。もう、そろそろ疲れたんだけど。気が逸れ、長い爪が腕をかする。そのために感じた痛みに腕を押さえつつ、人狼を睨み付けた。



「血だけでこんなうめぇんだ…肉は、さぞかし美味いんだろうな。さっさと食わせろ人間!」
「嫌だって言ってんの。日本語通じないのかよ、この獣野郎が」



そろそろキレそう。だけど、頭に血を昇らせたら視野が狭くなるのは目に見えてる。彼奴が、そうだったし。小さく溜め息を吐き出したところで、ふと視界の端に移る何か。人狼から意識を逸らさないようにしながらも、そちらへと視線を向けたところラミアが逆さに宙吊りされていた。ああ、負けたのか。そう思いつつ、見下したような笑みを浮かべる性悪吸血鬼どもへと視線を向ける。



「助けてほしけりゃ、アヤト様に血を捧げますのでどうかお助けくださいって言ってみろよ」
「僕は面倒ですから助けませんよ?無様に逃げ回る様を見てた方が余程楽しいですし」
「んふっ、その痛みに堪える顔がもっと見たいからボクも暫く見学かなぁ」



揃いも揃ってクソな性格してますね、ええ。寮長も何かしんないけど微笑みながらユイの口を塞いで見てるし。助けなきゃとかユイが言ったから、ああなったんだろうけど。他の三人も助けるつもりなんてないんだろうな。と言うか、人狼が来たらどうにかしろって言われてなかったかバカ三つ子。あー、でも期待するだけ無駄だもんな。あれだろ、あれ。ギリギリまで追い詰めて、弱ったところを頂こうって魂胆だから動かないんでしょ。



「ホント根性腐ってる。……ラミア、お前こないだ私の足みたいとか言ってたよね。見せてやるから助けろ」
「え、マジ!?足首!足首触らせて!踝のとこ!」
「あー、はいはい。その宙吊りからさっさと復活して片付けたらね」



こうなれば、手段なんて選んでられない。変態ラミアは、常々人のタイツに覆われた足を見たいみたいと喚いてたし、それで動くなら安い方だ。踝フェチなんて変な性癖にも目を瞑ってやる。溜め息を吐き出し、人狼の爪から逃れようとしたところで唐突に人狼の体が吹き飛んだ。ラミアは、まだ宙吊り状態だったために、ただ驚くしかない。状況が読めずに唖然とする私の体を背後から抱き締めるように引き寄せ、太股を撫で回す手に悪寒が走った。



「ちょっ、どこ触って…!」
「だって助けてあげたら足を見せて、触らせてくれるんでしょ?だから助けてあげたのに」
「あんたなんかに言ってない!しかも、触るの足首だけ!」
「んふっ、ボクは太股がイイなぁ。柔らかい内腿にボクのキバを埋め込んで…」
「だから触るな!気持ち悪い!」



タイツと言う薄い布越しから足を撫でられ、嫌悪感から背筋が粟立っていく。いやらしい手付きが本当に気持ちが悪い。ショートパンツの裾から侵入してこようとする手を掴み、阻止していると今度は首元へと顔を埋めてくる。逃げ出したいが、腰に回された左腕がそれを許さない。何て馬鹿力をしてるんだ、こいつ!不意に冷たい舌で首筋を舐められ、それに、ひくりと息を飲んだ。耳元で小さな笑い声が聞こえてくる。



「可愛いなぁ。そんなに嫌がって、怯えちゃって。このまま食べちゃいたいぐらいだよ」
「耳元で喋るな…っ、」
「んふっ、耳が弱いんだ?」
「や、めろって…!」
「っ、吸血鬼ごときが人の獲物に手を出してんじゃねぇ!」



何時の間にやら復活していたらしい人狼の大声に思わず肩をすくませる。それと同時にしつこいぐらい耳元に唇を寄せて発していたからかうような笑い声が止まった。



「吸血鬼ごとき、ねぇ…たかが人狼が言うじゃないか」
「ハッ、どいつもこいつもお前らが怖ェなんって言ってるが、俺からしてみれば見かけ倒しの木偶の坊だ。現にお前以外出てきやしねぇ」
「あ?それ、オレ様に対して言ってんのかよ犬っころ」
「お前ら以外に誰がいるって言うんだ」
「上等だぜ。ぶっ殺してやる!」



うわっアヤトのやつ何て短気なんだろ。怒らせちゃったねぇと再び人の耳元で話始めたライトの顔を押し退け、何とか体を引き離そうと四苦八苦しているうちに人狼は殺されていた。私にでも分かる鉄臭い血の匂い。吸血鬼からしてみれば、相当にキツいらしく鼻が可笑しくなる前にと屋敷へ戻ろうとする。戻りたくない私が踏ん張ったところ、やはり無駄な徒労に終わったのは言うまでもない。


<<|>>


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -