怠惰陰陽師 | ナノ
合流



「おらへんな…」
「何処に行ってしまったんでしょうか……」



あれから二階を探索したが、いっこうに二人が見付かる気配がなかった。捕まって何処かに閉じ込められているのかもしれない。生きているのは確実だと言うことしか今は分からないことに紗雪は大きく舌を打った。あれから度々の襲撃に疲れも溜まってきている。はてさて、どうしたものか。そう考えていると不意に妖狼の鼻がひくりと動いた。どうした、と問う暇もなく式は走り出す。その背から振り落とされないように紗雪は強く背中の毛を掴んだ。



【此処!此処だよ!何時もおやつくれる兄ちゃんがいるの!】
「おやつ?……宍戸がいるのか」
【うん!】
「よく気が付いてくれたね。ありがとう」
【オレ、凄い!?】
「うん」



嬉しそうに尻尾を振る妖狼の頭を撫でながら置いてきてしまった六人が来るのを待っていた。途中で妖気も何も感じなかったから時期に追い付くだろう。彼女の予想通りにすぐに六人は姿を見せた。そして向日に置いていった事について文句を言われるのを聞き流しつつ、施錠された部屋の扉を指差す。すぐに言いたい事を理解したらしい日吉が進み出て来て、少し離れているようにとの言葉。大人しく下がれば、見事に蹴り一発で扉を開けてくれた。それを見ながら暢気に紗雪は拍手をし、何時の間にやら手にしていた符を部屋へと投げ入れる。暗闇の中に火が灯り、中を照らし出した。



「宍戸先輩……!!」
「無事とは言えねえが…怪我はねぇみてえだな」
「……悪ぃ」



縄で縛られた状態で宍戸は眉を下げている。その縄を鳳が急いでほどいてやるなか、紗雪は辺りへと視線を走らせた。何処からか風が流れてくる。それの出所を探すように妖狼へと命じた。もう殆どの部屋を探したのだ。残されているのは僅かな部屋ばかり。だが、鍵が掛かっていたのは今まで此処だけ。芥川がいるなら同じ場所と考えてよい。だが、いない。そして、この風が流れてくる箇所から別の場所へ通じているはずだ。それならば可能性があるのはその場所だろう。



「おい、此処からじゃねえか!?」
「此処ですね。…蹴破りますか?」
「足、痛くないの?平気なら蹴破っちゃって。今は時間が惜しい」
「分かりました」



本日二度目の日吉の蹴りにより、簡単にフェイクの壁は壊された。何処かにスイッチなんかがあるのだろうが、そんなものに割く時間はなかった。壁の向こう側にあったのは外へと続く階段。その先は中庭へと繋がっているようだ。その先には小さな離れらしき建物。階段を下り、中庭に埋まるものを見て彼女達は絶句した。地中から見える無数の骨。被害者は全て此処に埋められていると言うのだろうか。紗雪は小さく供養の言葉を唱えた。そのまま建物まで歩いていき、扉を開ける。すぐに目に入ったのは血塗れの手術台らしきものに寝かされた芥川であった。珍しく血相を変えた紗雪が駆け寄ろうとしたが、寸前でそれは阻まれてしまう。見えない壁が邪魔をする。



「ジロちゃんっ!」
「落ち着けって紗雪!ここでお前だけがこれ解けんだろ!」
「あ……」
「一先ず深呼吸し。幸い敵さんはおらん。それから結界ときぃ」



向日に頭を殴られながら言われ、その言葉に紗雪は漸くと冷静さを欠いた自分に気が付いた。そうだ、こういう時こそ感情を捨てろ。冷静になれ。忍足に言われた通りに深呼吸をし、侵入を阻む結界へと向き合う。本来なら時間を掛けて解除することが安全だが、今はそうは言ってられない。表情を引き締めた彼女は結界へと手をつく。無理やり抉じ開けるために一点集中で霊力を籠めていく。少しでも綻びが出れば、こっちのものだ。暫くして何かが砕け散る音がした。それとともに力の反発がかき消える。結界が解けたのだ。



「おいっジロー!!」
「大丈夫ですか!?」
「うっ、あ…………みんなっ、?」
「取り敢えず立てるか?直ぐに此処を出るぞ」
「ま、待って!!」
「何でだよ!?ジロー、お前っ…!!」
「ここ、女の子が泣きながら来るんだC…男に連れてこられて首を…」
「過去視、してたの…?」
「過去視?」
「言葉の通りだよ。他人…そうだね、死んだ人間とが多いかな。波長が合うとその人間が死んだ瞬間を視ることが出来る。ジロちゃんの様子だと完全に波長が一致して追体験してる。これ以上は危ない」
「で、でも…」
「首を切られて死んだ痛みをこれ以上、体験してたらジロちゃんの精神が持たない。その女の子が可哀想なのは分かるよ。けど、ダメ」



引きずり込まれてしまうから。強い口調で話す紗雪に芥川は無言で頷いた。彼女は頭の片隅で永遠に繰り返される光景を静かに受け入れながら、その建物を後にした。追体験をするまで波長を合わせないように気を付けながら、その光景から手掛かりを得ようとする。どうやら、あの部屋で殺されて血を抜かれるようだ。それからは分からない。ただ、何人も何人もそうやって殺された。芥川と波長が一致した少女はここのメイドのようだ。未だに自分の死んだ場所に縛り付けられる彼女の霊体を振り返りながら紗雪は、その波長を乱した。



「さて、全員揃いやがったな」
「それで、どうするんですか?」
「何処かに結界を張って籠城する。その間に行きたい場所がある」
「行きたい場所って?つか、此処から出れるのかよ!?」
「出れないよ。来た場所にしか帰れないから」
「それで何処に行くのー?」
「冥府」



紗雪の言葉に日吉と芥川は目を輝かせたが、残りの六人は額を押さえながら溜め息を吐き出した。マジでそんな所に行くのかこんな非常時に。そう目が訴えているのを無視し、近くの部屋へと入った。鞄から大量の霊符を取りだし、簡易的でありながら強力な結界を作り上げてしまう。それから古びた鈴を手にする。チリンッ…と揺れていない鈴から音が聞こえる。空間が、ぐにゃりと歪んだ。




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