怠惰陰陽師 | ナノ
蛇神の祟り



「何って言ったのさ」
『ですから至急本家にお戻りくださいと!』
「何でー。姫さんから離れたくなーい。てか怠い面倒くさい眠い寝かせろ」
『紗雪様でなければならないのです!お願い致します!鯛焼き三十個でどうか!!』
「よし乗った!」
『ありがとうございますぅぅぅぅ!!!』



あー、でも面倒くさい動きたくない。そうテニスコートの隅でうじうじしていれば黒服が数人駆けてきて、ぐだくだしている紗雪の両腕を掴んで立ち上がらせた。これまた見なれた光景に、またかとテニス部は気にもせずに練習を続ける。彼女がいない間は臨時の陰陽師がつくために彼らに実害はない。あるとすれば臨時の陰陽師にだけである。



「姫さんに触れんなよ惚れるなよ。惚れたら呪うからな末代まで呪うからな」
「良いから早く行きやがれ!」
「えっちょ痛い頭を叩くなよ跡部!」
「ばいばい紗雪ちゃーん」
「ジロちゃんにもうムースポッキーはやらんからな」
「ええ嫌だCー」



まったく動く気がない紗雪は、そのまま担がれて車へと運ばれる。一見すると誘拐のように見えるが、こうでもしなければ彼女は動かない。そのまま京都の本家までの移動がなされるわけだが、新幹線を使うはずもなく直ぐにヘリへと投げ込まれた。流石と言うべきか。表沙汰にされないだけで陰陽師と国家権力との繋がりは強い。故に金はないが、自由にヘリをチャーター出来てしまい、そう時間が掛からずに本家へと着いていた。怠惰な紗雪は正装すらせず、運ばれるがままに今回の依頼人がいる部屋へと向かう。



「では、この中でお待ちになられてますので。あ、前金の鯛焼き十五個です。お納めください」
「はむっ」
「て、はやっ!何で今食べんすかアンタ!普通は解決してからでしょ!?」
「前金じゃん。それに腹が減っては戦は出来ぬとな」
「もう良いですから!早くして!」



依頼人が襖を隔てた先にいると言うのに紗雪はマイペースに鯛焼きを咀嚼していく。それに堪えられなくなったお付きの人間は鯛焼きを取り上げて部屋へと投げ込んだ。あうっ、と間抜けな声とともに畳へと叩き付けられ、打った額を擦りながら座り込む。依頼人は、それを見て呆然としているのか。生憎とフードを被っているために表情は伺えないが、そんな空気がひしひしと感じられる。だが、紗雪はこんなんでもプロである。依頼人の纏う空気に異変を感じ、その碧眼が細められた。元は悪いものでもなく、寧ろ神々しささえ感じられる。しかし、それが濁っているように思え、神の怒りに触れたのかと予想をつけてから口を開いた。



「えーっと安倍紗雪です」
「財前光です」
「先ずフード取って」
「…」
「ありゃ凄い。蛇神だね、その原因は」



無言で取られたフードから顔を出した少年は紗雪より年下で耳には五つものピアスをした黒髪の持ち主だった。その少年の右半分の顔には鱗のような模様が浮かび上がっており、おそらく体の右半分すべてがそうなっているのだろう。ふむふむと鱗を見つめ、祟りであることを確認する。土地神レベルのものであるので祓えなくもないが、事情を聞かなければ根本的な解決には結び付かない。



「その前に上も脱いでよ。その鱗が何処まで広がってるか視るから」
「…恥じらいないんすか」
「野郎の上半身とか興味ないもん。で、それ何時から出てきたのさ」
「…二週間前からっすわ。最初は右足首からやったんやけど…広がってしもうて」
「その前に何かやっただろ?そうだな…肝試しとか何か壊したとか」
「学校近くの古井戸にお化けが出はる言うて肝試しに行ったんやけど…誰かが縄に足引いかけた言うてましたわ」
「井戸ねぇ…蛇神だし、その土地神の住処か。縄は注連縄だとすると…悪さしてた奴か。しかも君はとばっちりと。もう服着て良いよ」



まあ、肝試しに行ったのが自業自得だけど。そう言えば、ぐっと言葉を飲み込む財前。正確にはとばっちりではなく、故意犯だろう。何て悪質なのだろうか。まだ目覚めていないだけで、魂魄に隠れた霊力は高そうだ。この少年を祟り殺した後にパクンッと食べて能力アップを狙っているのは見え見えである。故に手加減は無用だが、相手は土地神。そう、神なのだ。陰陽師とて人間であるので神を殺せるはずもなく、これは更に高位の神に頼る必要がある。自分自身を気に入ってくれていて力を貸してくれる神は幾人か存在するが、同じ水の属性ならば貴船の神が良かろう。そう思い、用意されていた神酒を手に取った。



「今から祟りを跳ね返すけど、完全には祓えない。君を祟ってるのは仮にも神様だから今後その井戸には近付くな。近付かない限りは二度とこんな事にはならない」
「わかり、ました…」
「それと、たぶん幽霊とか視えるようになると思う。そういう素質があるから一応、言っておく。じゃ、これ飲んで」
「…酒くさいんやけど」
「神酒だから酔いはしないよ。君自身の体を清めないとならない。あ、何ならそこの池に投げ入れようか?」
「……」



庭を指しながら言えば、頭を横に振って神酒を喉へと流し込んだ。霊力を込めていたそれは体内を巡り、右足首辺りに集まっていく。彼処に祟りの元があるのか。場所を特定したところで鈴をつけた榊を手に取った。




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