眠れぬ暁をきみは知らない | ナノ
その名前は不正解



使い物にならなくなったタンマツにダウンロードしてあったゲームをしながら雪篠朱綺と言う人間について考えてみた。何をしてみても大した反応はなく面白くもなんともない。興味をそそられる所なんて何一つないが、初日のように叫ばないかという好奇心でベッドで寝てみたが効果はなし。つか、あいつ普通の女みたいな反応しねぇのかよ。それならば一緒に寝る意味なんて何処にも存在しないが何となく心地好くてズルズルと続けてしまう。隣にいて眠れる奴なんて美咲ぐらいしかいないはずなのにな。そんな下らない事を思っていれば、タンマツに似たスマホとやらに二度目の電話が掛かってきた。大方もうすぐ帰ると言う電話だろうな。そう思いながら画面をタップし、電話へと出る。しかし、予想と反して聞こえた声は彼奴のものではなかった。



【あのっ伏見さんですか?】
「あー、そうですけど」
【すいません、朱綺が先輩達のせいで酔い潰れちゃったんで迎えに来てもらえませんか?】
「…分かりました」
【本当にごめんなさい!地図送りますから】



面倒くせぇ。舌打ちをしたくなったが何とか堪え、電話を切ると直ぐに地図が送られてきた。パソコンで把握した地理から鑑みるに、そう遠くはないらしい。これで遠ければ文句の一つでも言っているところだ。靴を履き、事前に預かっていた合鍵で鍵を閉めて夜の街を歩いていく。外はまだ微かに肌寒く、自然と眉間に皺が寄ったのが分かる。と言うか酔い潰れてるとか言ってたよな。あんな性格の奴が酒なんか呑むのかよ。どっかの室長みたいな奴がいたら有り得るかもな。セプター4での強制参加させられた飲み会を思いだし、舌打ちが漏れた。思い出しただけで胸くそ悪い。イライラしながら辿り着いた店の前には女が一人立っていた。



「あ、もしかして伏見さんですか?」
「そうです」
「此方にいるんでお願いします」



案内された個室の店内の中で見事に酔い潰れたらしい雪篠に群がる酒に酔った女が数人。それを見ただけで帰りたくなったが、回収しなければ話にならない。素面の奴等が何とか引き剥がし、荷物とともに俺へと押し付けてくるのを受け取ると女特有の騒ぎが始まる。本気でイライラする。さっさと帰りてぇ。そのうえ物凄い酒のにおいが雪篠からする。何時もの甘い匂いはしない。



「…すげぇ酒くさいんですけど、こいつ」
「相当に呑まされたのもありますし…」
「えー、帰るの朱綺。つまんなーい。せっかく酔わせて本音言わせようとしたのにー」
「本音?」
「ほら、朱綺ってば普段は冷静ぶってるじゃないですか。特にお父さんか亡くなってから、しっかりしないとって顕著になっちゃって」
「そう、ですか。それじゃあ連れて帰るんで」



背中に雪篠を背負い、店を後にする。あーすげぇイラつく。何だよ、冷静ぶってるって。そんなこと俺は知らない。知らなかったことに更にイラつきが募る。そんな此方の心情を知らずに暢気に眠る本人が憎たらしい。落とせば痛みで目が覚めるだろうか。何度目か分からない舌打ちをしたところで背中の雪篠が身動ぎした。僅かに舌足らずな声で名前を呼ばれる。首筋に長い髪があたってくすぐったい。



「起きたのかよ」
「…ん…ふしみさん、」
「なに」
「ふしみさん、あったかい…」



寒いのか擦り寄ってくる雪篠は普段なら考えられないぐらい甘えた声で何度も俺の名前を呼ぶ。それで何かを満たされたような気がした自分に吐き気がした。そんなこと有り得ない。出会ってまだ一週間ちょっとの面白くもない奴にとかマジ有り得ない。しかも相手は酔っ払い。面白くもなんともねぇし。漸くマンションに着き、酒くさい酔っ払いを何時ものベッドに放るように降ろす。本気で疲れた。もう、うんざりだ。リビングに行こうとすれば服の裾を引かれた。肩越しに振り返れば、酒のせいでほんのり染まった頬と潤んだ目で見返される。



「んだよ」
「いっしょ、ねないんですか」
「…マジ酔っ払いとか面倒なんだけど」



舌打ちをしながらも仕方なく横になれば、人肌恋しいのか再び雪篠は擦り寄ってくる。それを受け入れる俺の頭はどうかしているらしい。何時もなら、うざいだけなのに。すぐに穏やかな寝息が聞こえてきて、すぐにリビングに戻ろうと思ったが無意識のうちに黒く長い髪に指を絡めていた。この感情に名前なんて付けたくはないから無視をする。明日の朝に仕返しをしてやろうと考えながら目を閉じた。






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