眠れぬ暁をきみは知らない | ナノ
わがままな休日



久方ぶりに訪れた大型ショッピングセンターの駐車場に車を止め、安心した。何とか事故を起こすこともなく来れ、駐車にも然程時間を取られずに済んだ。車のロックをし、人混みが嫌いだと言っていた伏見を半ば引っ張るように入店をする。なかなかに形容し難い表情で帰りたいオーラを撒き散らしているが朱綺は完全に無視であった。寸分たりとも気にもしない。隣で舌打ちされたとしてもスルーをし、笑顔で口を開いた。



「先に服を買ってきて下さいね。その間に必要そうなもの買ってきますから」
「つまり俺に死ねってか」
「大丈夫です伏見さんは殺しても死ななそうなんで。寧ろ私の方が暗殺されると言うか」



朝とは言え、セール目当ての客でごった返している。そんななか性格はアレだとしても世間一般ではイケメンに分類される伏見がいれば、嫌でも注目を浴びてしまう。オマケに隙有らばと虎視眈々と狙ってくる若い女性たち。そんな彼の横にいては朱綺は視線での暴力を受け、受けたくもないダメージに胃を痛めるはめになる。そんな不名誉きわまりない事は御免だと笑顔で先程の言葉を口にしたのだが、餌にされたくはない伏見は不機嫌そうに舌打ちをし、彼女の腕を掴んだ。離せ、嫌だ。そんな押し問答を繰り返し、先に折れたのは朱綺だった。仕方なさそうに溜め息を吐き出し、メンズものの洋服が置かれている階へと移動をする。ぐさりぐさりと凶器となった視線に背中を刺されながらも好みの洋服を探してもらう。ショップの店員も女性が多いのが相場であり、更に機嫌が悪くなったらしい伏見を宥めて試着室へと見送った。ああ、このまま逃げたい。



「…これでいい」
「そうですか。では、その数着と下着類を買って日用品の方へ行きましょう。それと、その顔どうにかして下さいよ。怖いです」
「ギャーギャー女は煩せぇし人は多いし…とうぶん外に出たくない」
「まるで思考が引きこもりみたいですね。会計しちゃいますよ」
「ああ」



前半の言葉は丸々無視されたが、気にした様子もなく会計を済ませてしまう。彼が近くにいると店員が目移りしてしまい、作業が進まないので少し離れたベンチで待っててもらう。そして紙袋に入れられた洋服を受け取り、行ってみれば人垣が出来ていた。無論、全て女性で作られている。こうして離れたところで客観的に見てみれば伏見猿比古と言う男は顔が整っていた。まあ表情は別の話だが。誰しも欠点と言うものが存在するが彼の場合は外見が良いぶん内面に出てしまったらしい。しかし、これは面倒くさいな。そう思っている朱綺に気づいたらしい伏見が此方へとやって来た。当然ながら舌打ち付きである。



「声かけろよ」
「お姉さま方に刺し殺されたくないんで。さて、次は下に降りますからね」
「ん、」
「え?」
「持つ。俺の荷物だろ」
「……熱ありますか?」
「ざけんな。アンタ人を何だと思ってんだ」
「えー、外見は良いですけど性格は悪い方だと思ってます」
「あっそう」
「聞いた割には興味なさそうですね。ほら、早く行きますよ」



今度は下のフロアでタオルや歯ブラシといった日用品を購入していく。特に何の拘りもないらしく適当に買い物を済ませてしまう。物に執着がないと部屋はきっと寂しいのだろうな。勝手な推測を繰り広げ、次いでとばかりに地下の食料品売り場で安い食材を買い込んでしまう。伏見を見るにそこまで食べないだろうと予測し、日にちがもたないようなものは少な目にしておく。不意にカゴの中の野菜がなくなっていることに気が付いた。確かにいれたはずの胡瓜やニンジンがない。さて、これはどういった事だろうか。考えなくても答えは直ぐに出てくる。自分の隣にいるのは一人しかいない。



「伏見さん、勝手に野菜を返さないで下さい」
「…野菜きらい。あと生魚も」
「レベルの高い偏食家ですね。我が儘言わないで下さいよ。私は寧ろお肉が苦手なんですから」
「野菜の方が不味いだろ」
「何でそこだけ即答するんですか。…じゃあ夕飯はハンバーグにしますからサラダは食べてくださいね」
「やだ」
「……帰ってから話の続きしましょう。此処ではらちが明きませんから」



この偏食家には口では勝てそうにもないと早々に諦め、食材の買い出しも手早く終えてしまう。荷物は多くなったが、車の上に伏見が持っているために殆ど朱綺に負担はない。優しいのか優しくないのか。非常にあやふやな所だが、そのうち分かってくることだろう。にしても彼の舌打ちは、どうにかならないものだろうかと密かに頭を抱えた。






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