眠れぬ暁をきみは知らない | ナノ
花と海と素直な気持ち



音を立てないように、ゆっくりと開けたはずの扉は勢いよく中から開けられた。そして腰辺りにすがり付いてくる少女を受け止め損ね、その場に尻餅をついてしまう。驚きで目を丸くさせながら抱きついてくる今にも泣きそうなアンナを宥めるように頭を撫で、ごめんねと呟いた。尻餅をついたままの体勢でHOMRAの中を見渡せば、朱綺の帰りを待っていたらしい面々と目が合う。申し訳ない気分で一杯になり、謝罪の言葉が口から漏れていく。



「心配、した…」
「ごめんね、アンナちゃん。私もこうなるとは思ってなかったから……」
「サルヒコのとこに居たの?」
「え?知り合いなの?」
「伏見は青のクランに行く前にうちにいたからね。朱綺が知り合いだった方が俺は意外だな」
「以前お話しした私と同じ体験をした人って言うのが彼なんです。その縁で」
「ほな、例の伏見失踪事件の真相はそう言うことやったんか」
「失踪事件?……じゃあ私もそうなってるのかな…」



煙草を吹かしながら言った草薙を見ながら朱綺は何となしに呟いてみて落ち込みそうになった。肉親はいないものの常日頃から付き合いのある友人たちはどうしているだろうか。心配は、してくれているだろう。けれど、此処から帰りたい気持ちがあるかと言われると微妙なところだ。此処はとても居心地が良いから。そんな彼女の心情を察したのか。アンナが眉を下げながら朱綺の袖を引いた。



「……帰りたい?」
「へっ?……あー…どう、だろう。吠舞羅の皆は良い人ばかりだし居心地が良いんだ。でもね…やっぱり、ちょっとだけ寂しくなるの。私ね、お母さんもお父さんも今はいないんだ。残ってる写真とか全部…残してきちゃった。だから寂しくなる。行方不明状態なら友達にも迷惑掛けて申し訳ないなって思うし。けど、帰りたいとは思わないんだ。変だよね」
「…別に良いんじゃねえのか」
「周防さん…?」
「元々住んでた世界を恋しがるのは普通だろ。此処に居たきゃいれば良い。帰りたくなったら死に物狂いで帰れば良い話だ」
「流石、尊さんっすね!分かったんならウジウジすんなよ!」



初めはキョトンっとした表情を浮かべていた朱綺だが、暫くすると満面の笑みを浮かべながら頷いた。此処にいても良い。その言葉が嬉しかった。元は交わらない世界の住人同士。朱綺は幾ら彼らと関わろうが所詮は他人なのだ。拒絶されたって可笑しくない状況でも受け入れてくれた。それが単純に嬉しかったのだ。



「それじゃあ昼にしようぜ、朱綺。俺もう腹減って死にそうなんだよ」
「テメェは何時も腹空かせてんだろうが!」
「やめてください八田さん!蹴らないで!」



八田によって足蹴にされる鎌本に救いの手を差しのべようとしたが、アンナに手を引かれるがままにカウンター席へと移動する。面白がった坂東や千歳が野次を飛ばし始めた。それを見てオロオロする朱綺に放っとけと出羽が頭を軽く叩く。それに賛同するようにエリックが頷いた。



「やれー!もっとやれー!」
「…馬鹿丸出しだな」
「でも、私こういうの元気があって良いと思います」
「多分そう言うのアンタだけだと思う」
「ほら、暴れんなやー。遊ぶんなら外に行きぃ」



事の成り行きを見守っている間に草薙特製のオムライスが姿を表す。それにケチャップを掛けてくれと言うアンナからそれを受け取り、器用に絵を描いてしまう。それを見て目を輝かせる彼女に朱綺は小さく微笑んだ。赤が好きだと言う彼女は本当に嬉しそうに絵を誉めてくれる。感情が乏しいように見えるが、それでも喜んでくれているのが良く分かった。



「ねえねえ、朱綺って伏見とどんな関係なの?」
「はいっ!?」
「あ、スプーン落ちたよ」
「ご、ごめん、ありがとう翔平くん。……十束さん、急に何ですか」
「だってあの伏見が八田に目もくれずに連れていったんでしょ?俺としては凄く気になるんだよね。それでどうなの?」
「ど、どうって言われましても…別に付き合ってる訳ではないですし……その、何と言うか…」
「……赤い」
「赤うなっとるな」
「何ですかアンナちゃんに草薙さん!からかわないで!」
「ほほう…気になるな」
「千歳さんまで!?さっきまで騒いでたのに何時から聞いてたんですか!」



それから真っ赤になった朱綺は黙々とオムライスを口へと運んでいく。何も語る気はないようだ。それでも隣に座るアンナに筒抜けだと言う事に本人は気が付かない。後にそれに気が付き、恥ずかしさに消えたくなったのはまた別の話。





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