偽物さがし | ナノ
くもりのちくもり



「検査お疲れ様!何事もなくて良かったよ、梦ちゃん」
「ありがとうございます、千夜さん」
「やだやだ千夜ちゃんって呼んでよ!もうっ!」



真っ白なYシャツの袖を降ろし、幾つもの繋がれた検査用の脳波を調べるコードなどを丁寧に体から外していく。千夜と呼ばれた女性に手伝って貰いながら自由になった体をストレッチで解していく。鎮目町を訪れてから随分と時が経過した。あれから彼女は、多くのウサギから心配をされ説教をされて今に至っている。予定より早かったが、其処へ梦は行かなければならない。目的を達成するためだけに彼女は黄金の元にいる。



「覚醒は五割ほど。まあ安定期に入ったからね。予定通りに進めるよ」
「…はい」
「やだなぁ。そんな堅くならないの!」
「で、ですけど…重要なのは、これからであって…なおか……」
「……どうしたの?」
「…少し探られてるみたいです」



中途半端に言葉を切らした梦は、そのまま目を閉じた。何かを通して探られている感覚をシャットアウトするように強く拒絶を示す。知られてはならない計画は隠し通さなければならない。故に彼女は、そうやって拒絶をして意識を自分から切り離させる。それにしても誰がこんな事をしているのだろうか。考えてみても分からない以上は仕方がない。指示されたように着替えを済まし、ウサギに伴われながら検査のために使用していた真っ白な部屋を後にしていく。石盤を視界の端に捉えながら梦は姿を消した。



***



コロコロとビー玉が地図の上を円を描きながら転がっていく。意識を集中させながらアンナは梦と瓜二つの少女を思い浮かべた。探るように深く深く彼女の心へと潜り込もうとする。そんなアンナの横に不安そうに梦は座っていた。片割れから聞いた話では犯人と思われる少女が見付かったのだと。だが、彼女はウサギの元にいるという話だ。故にアンナが匿っている場所もしくは目的を探っている。不意にアンナが脱力したように体をふらつかせ、倒れていく。それを同じように隣に座っていた十束が受け止める。地図の上を転がっていたビー玉は粉々に砕けていた。



「どないしたんや!?」
「だ、大丈夫…?汗が凄い…」
「……大丈夫。拒絶、されただけ…強い、拒絶…」
「拒絶?そんな事が……?」
「何か隠そうとしてる。でも、ちょっとだけ見えた…石盤の前にいるの。それで泣いてて…でも、強くダメって言って拒絶する」
「石盤…ドレスデン石盤のことやな?ほんなら彼女は新たな王なんか…?」
「…今の王様っていないのは第六王権者と第七王権者だよね?」
「せや。第六王権者は四年前に第五王権者との抗争で共倒れしたまま現れてへん。第七は…まあ去年色々あったわけや」
「……新しい王様。でも、どうしてそんな人が黄金のクランにいるんでしょうか……。普通はこんな事ないですよね…?」



梦の言葉通りに王は、本来お互い干渉しないものだ。ましてや他の王を保護するなんてことは有り得ない。どちらにしろ何かしらの目的があっての事だろう。強く拒絶するほど知られたくはない目的が。草薙は紫煙を揺らしながら自慢の脳をフル回転させる。それでも情報が少なすぎて答えの出しようがなかった。しかし、これで下手な手出しは出来ない。何であれ黄金の後ろ楯が相手にはあるのだ。加えてそのNo.2が直々に護衛らしき任についている。下手に手を出せば、自分達が潰されかねない。だからと言って仲間の仇をとらずにいられるわけでもないのだ。血よりも濃い絆で結ばれている。それが吠舞羅だ。



「しゃーない。暫くは様子をみよか」
「そうだね。皆には、そう言っとくよ」
「様子見?つまりそれは私もしなくてはならないのか?この私が?」
「泡沫!お帰り」
「何や偉く不服そうやなぁ。しゃーないやろ、相手は黄金やで?」
「だから何だ?別に私は赤のクランじゃないから迷惑も掛からない。良いだろ?」
「そう言う問題じゃないでしょ。泡沫は俺たちにとって大事な仲間なんだから」



むっと眉間に皺を寄せながらも泡沫は小さく頷くとカウンター席へと腰を降ろした。何時ものように煎れてもらった珈琲を飲みながら泡沫は思考を巡らしていく。梦が知らない…正確には覚えていない過去に今回の件は繋がっているのだろうか。交通事故で死んだ両親はウサギだった。それが関係していると言うのだろうか。答えの出ない問いに苛立ったように舌打ちを漏らす。なるべく思い出さないようにしていた過去を思い出そうとしたからか頭が痛んだ。



「あ、そうだ。アンナちゃん、こないだ言ってたケーキ買いに行こうと思うんだけど…他に何かいる?」
「ううん。…私も行く」
「え?でも今は危ないし…」
「それはお前もだろ、梦。私が着いて行く。それで良いか?」
「ほんなら十束も着いて行き」
「いらない邪魔」
「あははっ、相変わらず酷いなぁ泡沫ってば。そんじゃケーキ買いに行こっか」



四人でバーHOMRAを後にし、目的のケーキ屋へと歩いていく。そんななかで十束の視界に流れる蜂蜜色の髪が映りこんだ。反対側の車道を歩く少女は傍らに真っ白な服装をした女を連れている。その女が此方を見て仄かに微笑んでいた。





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