偽物さがし | ナノ
砂に爪痕



日常と化したHOMRAへの出入り。今日も梦は其処を訪れ、扉へと手を伸ばした。カラン、という音ともに扉を開けば、マスターである草薙が迎えてくる。だが、今日は珍しいことに滅多に顔を合わせる事のない周防尊がいた。当初は恐ろしさが強かったものの現在となってはそんな感情が薄れた梦は何時ものように挨拶をする。バーの中は夕方からは吠舞羅の面々が集まるが、昼間となればそれもなく静かな雰囲気に包まれていた。



「…今日はやけに早いな」
「授業が午前までだったので」
「ほんで泡沫はそんまま部活かいな」
「はい。それでですね…あれ?」
「どうしかしたか」
「端末を落としちゃったみたいで…見当たらないんです。探してきますね」
「一人で大丈夫なん?どうせ暇してる奴おるやろうし」
「大丈夫です!行ってきます」



鞄を片手に再び町中へと出ていく。落としたのは恐らくあの時。瞬時にその結論を叩き出した以上はバレるわけにはいかなかった。梦が端末を落としたのは紛れもなく、追いかけ回されている時だったのだから。心配をかけるわけにも行かず、最近は追われている事はないと報告している。それに対する後ろめたさを感じながら来た道を辿っていく。此処にも、彼処にもない。最後に端末を確認した場所まで辿ったものの、見当たらなかった。では、誰かが持ち去ったか。梦は眉を下げ、不安そうに辺りを見渡すが、やはり何処にもない。端末を買い直すのもバカにならないのに。そう呆れた感情を自身に向け深く溜め息を吐き出す。帰ろうと踵を返したところで背後の男と目がかち合う。直感的にヤバいと感じた梦は反射的に走り出した。



「さ、最悪…!」



半ば涙目になりながら走り続け、頭の中で地図を思い浮かべながら角を曲がった。振り払おうにも振り払えず、体力だけが刻々と削られていく。相手がストレインなのかさえも分からず、逃げ惑っていれば不意に右腕に痛みを感じた。男との距離は離れているはずなのに、腕は刃物で切られたように服が破れて赤が滲み出ている。攻撃型のストレインだと思い当たり、梦は更に表情を歪めながら逃げることしか出来ない。断続的に続く痛みに傷を左手で押さえながら遂に路地裏へ追い詰められてしまう。首に手が掛けられ、ゆっくりと力が込められていく。



「さあ、力を見せてみろよ?」
「…そんなの、でき、ない…」
「勿体ぶれば苦しむだけだ。さあ、早く!」



力を見せろ?そんな事を言われたところで自分には力がない。だから、こんな状況に陥っているのだ。酸素の回らなくなった頭で梦は首に掛けられる手を引き剥がそうとしたが力が入らず、虚しく男の手に掻き傷を作るに留まってしまう。動かすのも億劫になった腕がダラリと垂れ下がり、視界が霞んでいく。必死に酸素を取り込もうと足掻くなか、唐突に首にかかる力が消えて体が地面に投げ出された。突然、気管支に入り込んできた空気に噎せながら視線だけを動かせば青い色が視界に映り混んだ。ついで同じように地面に倒れた男。何とか助かったのかと、梦は気怠い体を起こした。



「ッチ、面倒くせぇな。せっかく美咲を捜してたのによ」
「けほっ、はっ、は……」
「おい、篠宮梦。篠宮泡沫はどうした」
「……いない、です。端末を落として捜してたらこうなってしまったので、」
「端末を落としたぁ?マジ面倒くせぇ」



イライラと効果音が付き添うなほどに機嫌が悪く、舌打ちがされれば梦は無意識のうちに畏縮してしまう。視線を下に向けながら血が止まらない傷口を押さえれば、生暖かい血液の感触に吐き気がしてくる。血は苦手だ。見えない場所からならまだ良い。だけど、今回はモロに傷が見えるうえに血までもだ。貧血なのか、頭がくらりとする。セプター4への連絡のためか、伏見は端末を取り出して電話をかけ始めた。



「ストレインに襲われていた篠宮梦を保護したんすけど。…は?連れてこい?ッチ、分かりました」
「あ、あの……?」
「来い」
「え?」
「また襲われたら面倒だから室長が連れて来いだとよ。さっさと歩け」
「あ、はい…」



反論の余地もなさそうなので黙ったまま後を追い掛ける。懸命に追い掛けるが、歩幅の差でどんどんと引き離されていく。おまけに貧血のために歩くスピードは極端に遅くなってしまっている。このまま置いていかれた方が楽かもしれない。そう思った頃に伏見が振り返った。離れているために舌打ちは聞こえなかったものの、不機嫌オーラはひしひしと感じられる。気まずくて視線を足元に向けながら歩いていれば何時の間にか近付いてきていた伏見によって小脇に抱えられてしまった。……え、何で。






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