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あれから時は流れ、時代は大きく移り変わっていった。薩長は官軍になり、幕軍は逆賊となっていた。あの面白い人間達ばかり居た新選組の連中は北上をして行き、今は宇都宮の辺りにいるらしい。薩摩に手を貸す必要性が無くなった俺達は身を隠し、二度と人とは関わらずに生きていくつもりだった。だが、気が付けば新選組とはぐれた女鬼を連れて宇都宮まで来ていた。それから俺は一人で行動をしていた。




『うっわ…血がすげぇ……』




鼻と口許を覆いながら呟く。戦争のせいで嫌でも苦手な血には慣れてしまっていた。けれど未だに気分が悪くなる事は治らない。血の匂いに酔って吐き気がする。腰にある刀は抜かずに戦場となっていた地を歩く。当然ながら敗兵に襲われる事もあった。それでも刀を抜く事はなかった。そんな風に過ごす日々のうちに遂に新選組に追い付いた。別に何かしたかった訳ではない。けれど彼等の生きざまを見届けたいと思ったのかもしれない。




『よう、新選組』

「お前は…」

『覚えててくれたんだ?お前等の所にいた女鬼、今は風間が保護してる。安心しろ、無事だ』




その事を告げれば安心したように息を吐き出す。だが、直ぐに口許を引き締めた。変わりはないかかと尋ねれば、苦い顔で羅刹になったと告げられた。他の幹部だった奴等もだ。戦うために選んだ道。それを否定する事は出来ない、寧ろそれは敬意に値するものではないだろうか。




『そうか…。このまま勝ち目がない戦いを続けるのか?』

「例え負け戦だろうと俺は最期まで戦い続ける」

『まるで死場所を探してるみてえだな』

「かもしれねえな」




そう言って土方は苦笑を洩らした。少しばかりの言葉を交わし、その場を後にする。死場所を探すかのような彼等の行動を風間は愚かだと一蹴するかもしれない。けれど俺には出来なかった。







◇◆◇◆◇




そうして明治二年、六月。戦争が終わりを告げてから約一月後の事だ。風間達を置いて蝦夷に渡り、五稜郭の前に佇んでいた。此処が新選組の最期の場所。其処には擦りきれ、ボロボロになった【誠】の旗が落ちていた。それを拾い上げ、悲しげに微笑んだ。




『本当に大馬鹿野郎の集まりだったな、お前等は』




関わりがあったのは、ほんの少しだけ。それでも奴等を本物の武士だと俺は思った。だから、こそ…此処まで来たのだ。歴史に埋もれていく彼等の生きざまを忘れないようにと。




『新選組…俺はお前等が好きだったよ、その志が好きだった。こんな時代でなければ……』




もし俺が人間だったら、良い友になれただろうか。
その呟きに答えは帰っては来ない。それが酷く寂しく感じられたのは言うまでもない。






『なぁ、もし世が世なら友になれたか?俺達は』

「さあな。俺には分からん」

『つれないな、お前。土方は?』

「その時にならなきゃ分からねえよ。ただ、なれるかもな」







そう言ったのが新選組と交わした最期の言葉だった。どうしてだが、その言葉が離れない。もし平穏な世界で出会えたなら…今度は友になれるだろうか。なれる事を俺は願う。


折っていた膝を伸ばし、【誠】の旗から手を離す。きっと後から来る女鬼に必要な物だ。五稜郭に向かって深く頭を下げ、その場を後にする。その際に一瞬だけ新選組の奴等の声が聞こえた気がした。季節外れの桜の花が宙を舞い、風に流されていくの視界の端に捉えながら薄く笑みを浮かべた。


fin…

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