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美しい毒







忘れじの行く末までは難ければ今日を限りの命ともがな、とはなんて上手いのだろうか。不動は気を抜けばもう消えてしまいそうだから本当に歌になぞらえて死ぬのも一興だと静かに笑った。だって死ねば全部全部俺のものじゃん?死ぬその間際まで俺の声で俺の顔で全部全部埋めてやる。白い白い首は手をかけるとまるで興ざめするような細さだ。実際は興ざめなんてしてはいないのだけど、心許ないそれは簡単に折れてしまいそうだと思う。不動は眉を寄せることも睨むことも罵声を浴びせてくることもなかった。ただ笑う。眼差しは諦観にも似た、或は期待に溺れようとしているような、そんな色を浮かべていた。

「…あれ、殺さないの」

「やめた。見たくないし」

「あ、分かる。俺も見たくない」

手を離すと渇いた咳をして些か残念そうに首を摩る。

「じゃあどっちも死ねないな」

不動はその言葉をかみ締めるように反芻してから笑った。

「じゃあ一緒に死ねばいーんじゃね」

「…ああ、そうだな」

穏やかな気分になって、もう一度その首に手をかけると自分の首にも不動の手がゆるりと登ってきた。酷く冷たい指先に震える。少し力を入れると爪が食い込んでそこが赤くなって行くのが見える。じわりじわりと蝕むようにそれは広がる。自分の喉にもぴりぴりするような甘い痺れが走る。不動が満足そうに笑った。


せぇの、という声が鼓膜を揺らした。



(愛することは自らを毒することに似ている)




あとがき

私の中の佐久不はこんなんばっかです。でも愛はあるんです。歪んでるだけで!
20110209




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