微睡み
※ 死ネタ注意
血を流しすぎている、もう助からない。
もう少しで死んでしまうかもしれないと言うときに、頭は馬鹿みたいに冷静だった。
瞼が重い。
頭がボーッとしてフワフワして、痛みも何も分からなくなってきた。
こんなに気持ちが良いのはいつぶりだろう。
酷い眠気に襲われるが、目を閉じて眠りについてしまったら俺はもう二度と起きる上がる事はないだろう。
しかし焦りはなかった。
定まらない視界の中に、血溜まりに力無く投げ出された自分の手が見える。
この手で何人の人間を殺した事だろう。
ジジイになって家族に看取られて、そんなまともで温かい死に方をさせて貰おうなんて1ミリだって思ったことはない。
仲間には迷惑をかけないよう、誰にもみっともない所を見られずこんな風に一人の時にひっそりと誰かに殺されるのが俺の夢だったんだ。
本当だぜ。
悔いといったら、あのグルグル頭のイカレたアイツと今朝喧嘩しちまった事くらいか?
意外とやり残しなんて思い付かないもんだ。
終わってみりゃあ、案外良い人生だったかもな。
「あり…が、とよ……クソッタレめ」
いつまでも意識があるのがキツかったが、この忌々しい内臓まで深々と突き刺さるナイフを抜き去る力もない。
今まで殺してきたあいつらも死ぬ時はこんな事を考えたのだろうか。
俺の顔を思い浮かべて俺を呪いながら死んでいったのかな。
もしそうだったら光栄だな、と思った。
突然バァン!!と勢いよく扉が開いた。
「メローネ!!!」
とうとう視界がモヤモヤしてきやがって、自分が目を閉じてるのか開いているのかも分からなくなってきた時に喧しい音が響き渡る。
ああ、頭がおかしくなったな。
幻か?それともお前もしんだのか、ここは天国?
「クソッ!クソッ!!なに勝手にくたばってやがる!!寝てんじゃねえ起きろ!帰るぞ一緒に!!」
ギャーギャー喚く声が水の中にいるみたいに籠もっていて何を言っているのか聞き取れない。
いつも思ってたけどあんたのデカい声キライだったんだ。
その乱暴で荒々しい性格も不満があると直ぐに暴力をふるってヒステリーを起こす所も疑り深くて直ぐに浮気を疑う所も。
おまえだってそうだろう?
どうしてそんな辛そうな顔するんだよ。
今朝は朝食が手抜きだってあんなに怒ってたクセに。
一筋、ギアッチョの頬を伝った涙を拭ってやりたくて力をこめた指先はもう1ミリも動かなかった。
俺はこんな風に好きなやつに看取られながら死ねるなんて思ってもいなかったんだから。ディモールト幸せさ。本当だぜ。
ギアッチョのいつになく優しい手つきで頬を拭われるまで気付きもしなかった。
心とは裏腹に涙が止まらなくなっていた。
柄にもなく神様、と心で叫ぶ。
(こいつともっと生きていたいんだ)
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