ウケの条件


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 穏やかな午後だった。
 任務報告を終えたナルトは、静かな待機所を覗いた。いくつものテーブルが並ぶ待機所の窓際のテーブルでナルトの視線は動きを止め、その目元が柔らかく弧を描いた。
 窓からの日差しを浴びる椅子には、最近は別行動する事が多くなったかつてのチームメイトの姿があった。
 
「サクラちゃん」

 ナルトが片手をあげながら歩み寄ると、窓の外を見ていたサクラが弾かれるようにナルトへと顔を向けた。近づいてくるナルトに、サクラはニコリと微笑んだ。 ナルトは向けられた笑顔に弾む胸をこっそり抑えつつサクラの向かいの椅子を引いた。

「これから任務?」
「さっき終わったとこ」
「そっか。オツカレ」
「サクラちゃんは?」
「今日は師匠のとこ。今は休憩中」
「ふ〜ん」

 ナルトの任務は現地に赴くものが多く、内勤の多いサクラとは一緒になる事はほとんどと言っていいほど無い。互いに忙しく、ゆっくりと会話する事も残念ながらあまりない。ナルトは嬉しい偶然にニヤける顔をなんとか引っ込めつつ、サクラとの会話を楽しんだ。

「ねぇサクラちゃん。今日さぁ、一緒に一楽行かねぇ?」「え〜」
「今日はラーメンって気分なんだよね、オレ」
「今日はって……いつもじゃない」
「ね、行こうよ。奢るし」
「そうね、いいわよ」
「よっしゃー!」

 ナルトがガッツポーズを決めた所でフラリと待機所に入ってきた人影が一つ。

「お前達仲イイねぇ」

 カカシがダルそうな視線を二人に向けながら、ゆっくりと近づいてくる。

「あ〜、サクラ。綱手様が呼んでたよ?」
「ありがとうございます。それじゃ、また」

 カカシの言葉にサクラがガタンと音を立てて立ち上がった。笑顔を残して入口へと向かって行く後ろ姿にナルトが慌てて声を掛ける。

「オレここで待ってっから!」

 振り向いたサクラは笑顔で小さく頷くと、足早に廊下へと消えて行った。

「なになに、デートでもすんの?」

 サクラの居なくなった待機所の入り口をボーっと見ていたナルトは、隣からボソッと聞こえてきた声にほんの少しビクッと体を震わせた。
 振り向いたときのサクラの笑顔が可愛くて思わず見とれていたため、隣に居るカカシの事を一瞬忘れてしまっていたのだった。

「デ、デ、デッ。ち、違うってばよ。一緒に一楽行くだけだってばよ」
「ふ〜ん。デートでしょ」

 赤面して慌てるかつての教え子が面白いカカシが、チクチクとナルトをからかっていると、不意にナルトが何かに気付いたような表情を浮かべた。

「……なぁ、カカシ先生」

 カカシが不思議に思いながらナルトを眺めていると、前方に視線を向けたままのナルトが何かを思い出しながら呟いた。

「ん?」
「……」
「……なによ」

 呼びかけたまま無言になったナルトに話の先を促す。

「や、あのさ」
「ん〜?」


「……先生ってばウケなのか?」


 ………………
 ………………


 二人しかいない待機所の空気が止まった。





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