2012 Naruto BirthDay☆S
十月十日。里では毎年慰霊式典が行われる。午前中に行われた式典にはたくさんの里人達とともに、サクラも里の忍として仲間達と参加していた。しかし会場にはナルトの姿はない。
ナルトは物心ついた頃から、自身の誕生日でもあるこの日はあまり出歩かないようにしていたし、下忍になってからは何かと任務が充てられる為、式典には一度も参加したことはなかった。過去の出来事の全容を知ったサクラは、それらは三代目の配慮であったのだろうと思う。
会場に今も流れる悲しみの感情。悲観と憎悪でしかなかったそれは、里の人々が過去に起きた出来事の事実を少しながら知った事で変化しているのをサクラは感じた。そして会場には居ないナルトを思った。
式典の後はすぐに病院へ向かい、簡単な食事を済ませ勤務に就いた。
仕事中もちらりちらりとナルトの事が頭を掠めていく。
十八時を過ぎたところで、ようやく仕事が終わった。明日は早朝からの任務が入っているので今日はあまり時間的に余裕がない。サクラは急いで家へと向かった。
家に着いたサクラは夕食もとらず、帰り道のスーパーで買ってきた袋の中身をテーブルの上に広げた。
一時間程経つと家の中に良い香りが広がってくる。
「我ながらよくできてる」
オープンから取り出した鉄板の上に並ぶ菓子達を見たサクラは満足そうに笑顔で頷いた。
誕生日当日は恐らく会えないだろうからと、二日前にナルトの誕生祝いは済ませている。でも、サクラにとってナルトの誕生日はやはり特別な日だ。
ナルトは自分の誕生とともに起きた出来事を思わずにはいられないだろうし、そうすればきっとその胸には様々な思いが巡るだろう。ナルトにとっては辛い思い出の方が多いのだ。
だからこそ、この特別な日に気持ちだけでも側に居てあげたいと思う。
焼き上がった菓子が冷めるのを待つ間、軽く夕食を済ませシャワーを浴びる。
身支度を整えて、あら熱のとれた菓子を箱に詰めていく。一言メッセージを添えようとペンを持った所で思わず考え込んでしまった。
伝えたい想いはそれこそ際限なく溢れているが、それをしたためるのは流石に恥ずかしく、結局は自分が来たことを示す程度の短い言葉を書いた自分に思わずがっかりしてしまう。
時計の針に急かされるように気を取り直し、サクラは箱を抱えて家を出た。
今ではすっかり馴染んでしまったナルトの部屋。貰った合い鍵で中に入る。窓から入る月明かりで部屋の中は案外明るかった。
サクラは明かりをつけぬままキッチンへと向かい持参した箱とメモを置くと、月に誘われるように窓辺へ近づいた。ベッドに腰掛けると大きな月が見える。
「ナルトも見てるかなぁ」
ぽつんと呟いた後、それはないか、と思い直す。今頃きっとナルトは書類を前に眉を寄せているだろう。
仕事を終えて夜遅くに帰宅したナルトは驚いてくれるだろうか。少しだけ楽しい想像をしながらサクラは笑みを零した。
(2012.10.10) [ 2/2 ][*prev] [next#]
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