2012 Naruto BirthDay☆N


 
 トン、という音がして紙面を走っていた癖のある字の行進が止まる。同時に紙面の上に無造作に放り出されたペンが転がった。

「ぐはぁ〜終わったってばよ」

 さすがに疲れた。目を瞑ったナルトは大きく息を吐きながら椅子の背もたれに寄りかかった。
 火影見習いという立場のナルトには通常任務の他、今まで綱手が行っていた事務的な仕事が加わった。もともとデスクワークが苦手なナルトにとって体力勝負の任務をこなした後のデスクワークはかなり辛い。

 結局、今日も二十時少し前から始めた事務仕事が終わったのは二十二時をとっくに過ぎてしまった。

「何もさぁ、今日こんな仕事よこさなくたっていいじゃんか」

 十月十日。今日はナルトの誕生日である。だからといって誕生日を特に意識するような年でもないし、誕生日にこだわっているわけではない。

 今日のように遅くなる事も予想の範囲内だったし、サクラは明日も早朝から任務があると言っていたから、今日会えない事も分かっている。だから、二日前にサクラと二人で一足早い誕生祝いを済ませている。

 ただ、自分の生まれたこの日に里に起きた事や両親のことがいつもよりも気持ちの中心に近いところを占めていくから。独りでいた頃の自分がふと戻ってしまいそうでなんだか心細くて不安な気持ちが不意にナルトの中に沸き起こってくる。

 本当の事を言えばやはり今日はサクラに側に居て欲しい。言えばサクラは無理をしてでも一緒にいてくれるだろうと思うが、サクラに悪い。それにそんな女々しい男だというのも少々情けない気がした。

 もしも早く仕事が終われば少しだけサクラに会いに行くつもりでいたのだが、まもなく二十三時になろうとしているこの時間からではそれも叶わない。

「くっそぉ……ばぁちゃんめ恨んでやる」

 ここには居ない綱手に悪態をつきつつ、ナルトは帰り支度を済ませ屋敷を後にした。
もし窓に明かりが付いていたら。僅かな期待からその足は自然と少しだけ遠回りを選んだ。
 静かな夜道、ナルトの足音だけが聞こえている。通りの角を曲がって見上げた窓にはやはり明かりはなく、少々気落ちしながら自宅へと歩を進めた。

 チームメイトから恋人へと関係が変わってもうすぐ二年。常に一緒に居ると言うわけではないけれど共に過ごす時間は多い。
 道の先に見えてきた自室の暗い窓を見ながら、ナルトは肩を落とした。
 
「サクラちゃん明日休みだったらよかったのになぁ」

 ナルトは力なく呟きながらドアに鍵を差し込んだ。カチャリと小さな音を立てて開いたドアの向こうに続く暗い部屋。ナルトは小さく溜息を零し中へと進む。
 小さな頃から暮らすこの部屋は数歩進めばすぐに部屋の中心にたどりつく。照明の紐を引くとカチッという音の後、数回点滅してナルトの部屋に明かりが灯った。

 喉を潤そうとキッチンへと向かったナルトがハッと息を呑んだ。

 狭いキッチンに見慣れない箱が一つ。

 ドキリ、ドキリと心臓が鳴るのを聞きながら箱に手を伸ばす。箱の上に乗せられた小さなメモを開くと見慣れた愛しい文字が並んでいた。

『遅くまでご苦労様。誕生日おめでとう サクラ』

 箱の蓋を開けると中にはカップケーキが入っていた。

「やべー」

 嬉しすぎてニヤつく顔を止める事が出来ない。嬉しさのままカップケーキを手に取り頬張る。一気に頬張ったせいで喉を詰まらせそうになり慌ててコップに水を注いだ。水を一口飲んでキッチンに寄りかかる。
 箱の中からもう一つ取り出し今度は気をつけながら味わった。カップケーキを持ち上げ目を細める。

「ニシシ。愛だなぁ」

 会えなかった事は残念だったが、サクラの気持ちが届けられている事が嬉しかった。もともと何かと気にかけてくれてはいたが、こういう時に今までとはまた違ったサクラの温かさを実感する。

 ほんの僅か。カップケーキに向けていた視線が逸れたナルトの目はこの部屋には無いはずの物を捕らえ大きく見開かれていく。音なく大きく息を吸い込んだまま体を硬直させ、手にしていたコップを落としそうになり慌ててコップを掴み直しキッチンへと置いた。

 ドクン、ドクン。先ほどとは比べ物にならない位に大きく耳元で聞こえる心臓の音はナルトの体を小さく震わせた。
 前へと進む足の感覚が分からない。やっとの思いで歩いてベッドまであと数歩と言う所でナルトは立ち止った。

「な、んで」

 ナルトの見下ろす先で、座ったままパタリと横倒れになった姿勢のままで眠っているサクラが気配を感じてか薄らと目を開く。ナルトの足元を彷徨うようにゆらゆらと揺らめいた瞳の翡翠色がふっと色を得て大きく見開かれ、同時にガバリとサクラが起き上がった。

「な、なんでっ」

 起き上がると同時にサクラは慌てたように叫んだ。

「なんで、ていうか、ナルト?!今何時??」
「……もうすぐ二十三時四十分」
「信じられない」

 サクラはそう言ったまま額に手を当て項垂れてしまった。

「参ったな、置いたらすぐ帰るつもりだったのに」

 呆れたような溜息を零しつつサクラがボソリ呟く。

「驚かそうと思ってたの。なのに寝ちゃうなんて失敗」

 サクラがバツが悪そうにチラリとナルトを見上げると、ナルトは喜びをかみしめるような笑顔を浮かべサクラに抱きついてきた。

「ふふ、まぁアンタが喜んでくれたんなら成功だった、かな」
「大成功だってばよ」

 明日は仕事きつそうだなぁ……ぼんやりと思いながら、サクラはぎゅうぎゅうと強く抱きしめてくるナルトにそっと寄り添うように目を閉じた。 

Happy BirthDay NARUTO!
Please pass a fortunate and sweet birthday!!


(2012.10.10)
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